第四幕、御三家の幕引
「駅から若干遠いんだけどな。住所は石橋じゃねーし」
「ていうかお兄さんのとこ遊びに行ったら何するの?」
そもそも一人っ子なので、兄弟で遊ぶといっても何をするのか想像できない。桐椰兄弟の仲がいいのは分かるし、漫画で読むみたいにキャッチボールでもするのかもしれないけど、そんな年じゃないし、そもそも大阪に遊びにきてそんなことをするわけがないし……。
「別に……京都近いから京都で観光は行ったなぁ。あとはご飯食べてる」
「……兄弟でデートするってこと?」
「なんでだよ! 別に居酒屋とかでもいいわけだし」
「お酒飲めないのに?」
「飲まなきゃいけない決まりはないだろ」
「でも居酒屋ってお酒のおつまみっぽいのしかないんじゃないの?」
「まぁ、兄貴見てたら酒と一緒に食べるほうがおいしいんだろうなって感じだけど、料理だけでもいいもんだぞ」
ちょうど横断歩道手前で立ち止まったので、桐椰くんはスマホで何かを調べて見せてくれる。薄暗いお店の写真で、居酒屋というにはオシャレな雰囲気が醸し出されていた。ついでに料理も何やら手が込んでいる。小さなフライパンみたいなものになみなみと注がれたオイルに海老が浸かっていた。
「これなに?」
「兄貴に連れて行ってもらったバル。アヒージョとか、家で作ると面倒だから」
「なるほどねー」
ふーん、この料理はアヒージョっていうのか。というか、根底に自分で作るという発想があるらしい。相変わらず女子力が高いな。
ふむふむ、と見ていると、ひょいと松隆くんの顔が桐椰くんの隣から出てくる。
「彼方兄さんってお酒飲めるんだっけ?」
「あぁ、普通に飲めるっぽい。栄くんと飲みに行ってるだろ?」
「確かに。兄貴はあんまり強くないんだけどね」
不意に兄弟の話をして、ふと松隆くんが私を見る。
「そういえば……」
何か言いかけて──信号が変わって一瞬意識が逸れてしまったのを奇貨とするように、口を噤む。
「……なに?」
「……いや。なんでもない」
「ていうかお兄さんのとこ遊びに行ったら何するの?」
そもそも一人っ子なので、兄弟で遊ぶといっても何をするのか想像できない。桐椰兄弟の仲がいいのは分かるし、漫画で読むみたいにキャッチボールでもするのかもしれないけど、そんな年じゃないし、そもそも大阪に遊びにきてそんなことをするわけがないし……。
「別に……京都近いから京都で観光は行ったなぁ。あとはご飯食べてる」
「……兄弟でデートするってこと?」
「なんでだよ! 別に居酒屋とかでもいいわけだし」
「お酒飲めないのに?」
「飲まなきゃいけない決まりはないだろ」
「でも居酒屋ってお酒のおつまみっぽいのしかないんじゃないの?」
「まぁ、兄貴見てたら酒と一緒に食べるほうがおいしいんだろうなって感じだけど、料理だけでもいいもんだぞ」
ちょうど横断歩道手前で立ち止まったので、桐椰くんはスマホで何かを調べて見せてくれる。薄暗いお店の写真で、居酒屋というにはオシャレな雰囲気が醸し出されていた。ついでに料理も何やら手が込んでいる。小さなフライパンみたいなものになみなみと注がれたオイルに海老が浸かっていた。
「これなに?」
「兄貴に連れて行ってもらったバル。アヒージョとか、家で作ると面倒だから」
「なるほどねー」
ふーん、この料理はアヒージョっていうのか。というか、根底に自分で作るという発想があるらしい。相変わらず女子力が高いな。
ふむふむ、と見ていると、ひょいと松隆くんの顔が桐椰くんの隣から出てくる。
「彼方兄さんってお酒飲めるんだっけ?」
「あぁ、普通に飲めるっぽい。栄くんと飲みに行ってるだろ?」
「確かに。兄貴はあんまり強くないんだけどね」
不意に兄弟の話をして、ふと松隆くんが私を見る。
「そういえば……」
何か言いかけて──信号が変わって一瞬意識が逸れてしまったのを奇貨とするように、口を噤む。
「……なに?」
「……いや。なんでもない」