第四幕、御三家の幕引
「だから! 助けてよ!」

「まぁ、おじ様の意図次第だな。おじ様が君と総の仲を疑っているのであれば、鹿島を連れて来ればいい。彼氏とデート中に総と薄野のお見合い現場に遭遇したふりをしてな」


 名案をくださいとは言ったけど、その提案が来るとは思ってなかった。硬直した私に桐椰くんが視線を寄越す気配がする。


「……いーやー、ほら、松隆くんのお父さんがどんな意図かなんて、そりゃ、ねー……」


 私達の中で、松隆くんのお父さんの意図はほぼ一つに固まりつつある。お陰でみなまで言わずともってやつだ。

 そこでふと、月影くんが何か思いついたように顎に手を当てた。


「おじ様は、基本的には総を落ち着かせようとしているだけであって、わざわざ既存の恋人関係を壊すつもりはないと考えていいな?」

「ロミオとジュリエットみたいなことはしないってことだね!」

「それは例えとして不適切なので黙っていろ」


 遠回しなバカ呼ばわりだ。酷い。


「つまり、薄野側に彼氏がいてもこれは破談となるわけだ」

「……お前、まさか自分が立候補してくるっていうんじゃねーだろうな」


 桐椰くんのひきつった顔と声に、私も思わず立ち上がってしまいそうになるほど動揺した。失恋相手が彼氏のフリを、しかも親の前でしてくるなんて、傷口に塩を塗るどころじゃない、更なる深い心の傷を創るに決まってる! 冗談じゃない! いくら鈍い月影くんでもそれはあまりにも配慮がない! 残酷だ!

 が、月影くんは鼻で笑い飛ばした。


「まさか。俺が立候補してどうする」

「だ、だよな……よかった、さすがのお前も……」

「総の父親に顔が割れているんだ、嘘を吐くのに不適切だろう」

「そこじゃねーんだよ!」

「そこじゃないよ!」


 やはり月影くんは何も分かっていなかった……! ここまで鈍いと最早罪な気がしてくる。というか、いつかこの鈍さが犯罪を引き起こす気がする。


「俺が提案したかった相手は鳥澤だ」

「ん……ん?」


 なんだか久しぶりに聞いたぞ、その名前。いや、時々廊下で会うけどね。ちょっと気まずそうな顔で「元気?」っていつも聞いてくれるけどね。


「いや、えっと……名案! みたいな顔してるけど、正直微妙だよ!?」

「なんで鳥澤なんだ?」

「手っ取り早く協力してくれそうじゃないか」


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