第四幕、御三家の幕引
「……ちょっと色々あって、協力してほしいことがあるんだけど……つか、悪かったな、急に呼び出して」

「それは全然、大丈夫だったけど……」


 桐椰くんの表情も、鳥澤くんほどではないにしろ、やはり少し気まずそうだ。そうだよね、突然呼び出して突然彼氏役をやれとか、どう言い出せばいいのか分からないよね。私も本題は喉の奥で止まってしまっている。


「あ、鳥澤、昼は?」

「昼はまだ……」

「じゃ、とりあえずなんか食べるか?」

「ああ、ありがとう……」


 店員さんがお水を持ってきてくれたのを見て、桐椰くんがメニューを差し出す。そうだね、私達もお昼食べかけだし、まずはお昼食べてからのほうがいいよね!

「ところで呼び出した理由は薄野の彼氏役をしてほしいからなんだが」

「おい駿哉!」

「ちょっと月影くん!」

「………………え?」


 私達が言いあぐねていた本題を、脈絡なく、しかも単刀直入に切り出すときた。鳥澤くんの手から落ちたメニューが、ゴトリと、鳥澤くんの絶望を代弁したような虚しい音を立てた。

 一方の月影くんは、私と桐椰くんの諫言にも全く構わず、いつもの淡々とした調子で続けた。


「これから約二時間後、薄野と総の縁談がある。しかし、ここで薄野に既に彼氏がいれば総の父親が薄野の気持ちを(おもんぱか)って縁談をなかったことにしてくれるのではないかという案が俺達の間で浮上した。だが俺達は当然顔を知られていて、この嘘を吐く役者として不適切なので、君に白羽の矢を立てた」


 一番ふーちゃんの気持ちを慮る必要があるのはお前だよ!! と、多分私と桐椰くんは内心揃ってツッコミを入れた。鳥澤くんがふーちゃんの気持ちを知っているのかどうかは知らない。ただ唖然として、取り落としたメニューを拾うことすらできずに、月影くんを見つめている。


「え……っと……? ごめん、もう一回いいですか……?」

「二時間後に薄野の彼氏として名乗り出て縁談を破談に持ち込め」

「無理だろ!?」


 おお、鳥澤くんが素で反応した。さすがに本能的に不可能を可能にしろと命令されていることに気付いたらしい。


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