第四幕、御三家の幕引
 鹿島くんは、なぜ、復讐であることを隠したのだろう。復讐なんて、一番分かりやすい動機なんだ、理由をひた隠しにするのはともかく、復讐であることを隠すことにそんなに意味はない……はず。なぜ鹿島くんは否定して、鶴羽樹は包み隠すことすらしなかったのか。鳥澤くんの事件が月影くんを退学させることにならなかったとはいえ、どう転んだって、松隆くんや桐椰くんが後日鳥澤くんを問い詰めることは十分に予想できる。その鳥澤くんの前で、鶴羽樹が復讐であることを隠さなかったのは、隠す必要がなかったから……。

 分からない。額を押さえ、考え込む。手を組んでいるはずの二人がなぜ、食い違う?

「あの日ねぇ……んなこと言われても分かんねぇな」

「鶴羽と中学の時に何かなかったのか」

「なかったよ。話したことはあったけど、別につるんで喧嘩するような仲じゃなかったし。つか、鶴羽の話はあとでいいだろ、薄野の彼氏役の算段整えとこうぜ」


 ……そうだ。数十分前の自分のセリフを、今度は自分に言い聞かせる。鶴羽樹の話は、深古都さんの資料を得た後でいい。今はその資料を手に入れる策を練るべきだ。


「あ……そっか、その話ね……」

「制服で来たのは丁度いいな、下手に服を選びなおす羽目にはならずに済む」

「お前にだけは服装のこと言われたくねーと思うぞ」


 ちなみに本日の月影くんは白シャツにベストなので制服の亜種状態だ。それ自体は酷い恰好ではないけれど、月影くん自身のセンスではないのだろう。


「特に段取りも何もない。自分が薄野と付き合っているので縁談をとりやめてくれないか、と言いに行けばいい」

「お前、普段はきっちり計画練るのに今回はガバガバだな」

「緻密な計画は経験則に基づく予想ありきだからな。そんなものもへったくれもない縁談に持ち出すべきではない」

「そうだとしても決行する俺の立場になってくれよ……」

「ああ、腹は(くく)ったのか?」


 誘導尋問じみた台詞だったけれど、鳥澤くんはぐっと唇を引き結ぶだけで、首を横には振らなかった。ふん、と月影くんは満足そうに笑う。


「では、破談に持ち込むために、絶好のポジションを確保しに行くとするか」


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