第四幕、御三家の幕引
 懐かしい音楽の流れる、高校生のときによく行っていた喫茶店。座るのは決まって四人席。座っているのは俺と遼と駿哉。

 一年生のときはまだ四人で座っていたけれど、透冶がいなくなってからはぽっかりと一人分の席が空き、三人で座っていることのほうが多くなった。時々二人になるとしたら俺と遼の組み合わせだった。だから今はちょっと違和感がある。

 そう考えて、違うことに気が付く。そういえば、二年生になってからも、四人で座ることはあった。

 そう思った瞬間、当時のことが次々と思い出されてしまって、それでも、当時抱いていた感情はその苛烈さなんて失ってしまって……。甦ったのは記憶だけで、すっかり褪色してしまったことに気が付いて、一人で笑ってしまった。


「……どうした」

「……いや」


 言わなくても、駿哉にはバレている気がした。

 一度閉口してから、ゆっくりともう一度開く。


「桜坂のこと、思い出してね」


 駿哉は暫く黙っていた。


「……そうか」


 でもいつもと変わらない調子で頷く。

 少しだけ沈黙が落ちた。何を思われているのか、少しだけ不安だった。


「……俺は、遼と違うんだよね」


 だから、と、思っていたことを口に出した。いつも通り淡々と聞く駿哉に、そのままいくつか言葉を紡いだ。

 話し終えれば、駿哉は少しだけ困った顔をしていた。喜ぶべきか、悲しむべきか、よく分からないようだ。でも結局、薄く笑った。


「そうか」


 そう頷かれて、少しだけほっとした。


「……ずっと思ってたんだよ」


 コーヒーカップを掴んで、飲む前に、呟いた。


「遼にはちゃんと幸せになってほしいって」


 冷めた苦味が、ひんやりと口内に広がった。

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