第四幕、御三家の幕引


「月影くんー……」

「幽霊が出てくるわけでもないのに、何を怖がることがある。勝手が分からずに見知らぬ相手の前で恥をかくのが怖いだけだろう」

「嫌なこと言わないでよ!」

「しかも言い返せねぇ……」


 鳥澤くんと一緒にエントランスを見下ろしていた桐椰くんが小さくぼやいた。鳥澤くんも隣で頷きながら「あ、家族連れだ。こんな時期に旅行すんだなあ」とまるでこれからの役目は他人事であるかのように呟いている。もしかすると現実逃避かもしれない。

 ただ、桐椰くんは他人事だ。手すりの上に腕を載せて寄りかかりながら「つかさぁ」とこちらを見る。


「総達が座る席が分かんねーと、俺達もどこに座ればいいか分かんねぇよな。どうせ窓際だろうけど」

「なんで窓際なの?」

「眺めがいいからに決まっているだろう」


 馬鹿なのか? と月影くんの目に言われた。悪かったですね、発想がなくて!

「高校生のお見合いっていうのも驚きだけど……こんなところでやるんだなあ……」

「個室の料亭とかじゃないだけガチ感なくていんじゃね?」

「比べるハードルがおかしいよ……」

「お前がおじさんと食事したのは個室だったんだろ?」

「うえ」


 急に話をふられて変な声が出た。何も知らない鳥澤くんが「え? 食事?」と困惑した顔を向けてくる。当たり前だ、なんで私が松隆くんの父親と食事を、しかも個室でしてるんだ。これは話を振った桐椰くんが悪いぞ!

「ちょっと……松隆くんのお父さんと私のお父さんが昔の友達だったから、それで。小さい頃にも会ったことあるらしいんだけど、私は覚えてなくて……とりあえずそんな感じで、ちょっとご飯をごちそうに」


 何を言いたいのか分からない、どもりにどもった返事をしてしまった。お陰で桐椰くんからは、松隆くんと何かあったんじゃないかと疑いの眼差しも向けられる。こんなことなら何の話したか伝えておけばよかった! でもそんなタイミングなかったんだもん! 昼休みに桐椰くんを捕まえて「そういえば、お母さんのこと恨んでたけど、昔は優しかったの思い出したんだよねー! 病気だったら仕方ないよねー!」なんて軽々しく話すこともできるはずないし!

「……そうなんだ。個室だったら緊張したんじゃない?」

「そー、だねー……今より緊張してたかも」

< 302 / 463 >

この作品をシェア

pagetop