第四幕、御三家の幕引
指示されたとおりに対岸から遠くのエレベーターを見つめながら、思わず破顔して桐椰くんを見ると「字面はひでぇけどな」と肩を竦められてしまった。
「これなら松隆くんに水かけるのもありだったね!」
「なんだって? 水?」
「あ、すみません、なんでもないです……」
松隆くんに弄ばれたことにする作戦は色んな人の神経を逆撫でしてしまう。うっかり滑りそうになった口を慌てて閉じた。
「あ、あれ薄野さんじゃない?」
「……よく見えたな」
ちょうど鳥澤くんがエントランスを指さしたので揃って覗きこむと、白いロングコートを着た女の子とスーツのおじさんが一緒に入って来るのが見えた。女の子がおじさんに顔を向けたときに見えたけれど、確かにふーちゃんだ。遠目で分かりにくいけど、雰囲気でお嬢様感が伝わってくる。
「お、エレベーターで上がってくる」
「うわー、あれ見ると薄野って見た目はお嬢だなー」
「中身もお嬢だよ、桐椰くん」
「性格が清楚とは程遠いんだよなあ……」
「でもいい子だよ、桐椰くん」
「なんかいい子のベクトルが違う」
なんて偉そうに品定めしているけれど、吹き抜けを挟んで見えるふーちゃんは本当にどこのお嬢様だってくらいの美少女だ。中学生のときに学年一の美少女と名高かった人 (名前は忘れた)は、確かに美人だったけど、ふーちゃんを見ると格の違いを感じる。
対するふーちゃんのお父さんは、松隆くんのお父さんを見てしまったせいか、超ダンディなおじさまという感じではなかった。でも穏やかな顔つきの優しそうなお父さんだ。あとは、鳥澤くんが「すげー、若いなー」と呟くとおり、多分私達の父親にしては若い。ふーちゃんとは似ていないけれど、確かに、いつしか言っていたとおりの“円満な家庭”を想像させる。
「お、総達も来たな」
「……相変わらずおじ様は年をとらないな」
見覚えのある顔が二つ、またエレベーターに乗ってやってくる。松隆くんはお父さんの身長を追い越してしまったらしい。二人は揃って腕にロングコートを抱えている。背の高い人の特権だ。松隆くんは制服より少しカジュアルなシャツを着ていたけれど、ジャケットを羽織っているので普段より落ち着いて見える。
「これなら松隆くんに水かけるのもありだったね!」
「なんだって? 水?」
「あ、すみません、なんでもないです……」
松隆くんに弄ばれたことにする作戦は色んな人の神経を逆撫でしてしまう。うっかり滑りそうになった口を慌てて閉じた。
「あ、あれ薄野さんじゃない?」
「……よく見えたな」
ちょうど鳥澤くんがエントランスを指さしたので揃って覗きこむと、白いロングコートを着た女の子とスーツのおじさんが一緒に入って来るのが見えた。女の子がおじさんに顔を向けたときに見えたけれど、確かにふーちゃんだ。遠目で分かりにくいけど、雰囲気でお嬢様感が伝わってくる。
「お、エレベーターで上がってくる」
「うわー、あれ見ると薄野って見た目はお嬢だなー」
「中身もお嬢だよ、桐椰くん」
「性格が清楚とは程遠いんだよなあ……」
「でもいい子だよ、桐椰くん」
「なんかいい子のベクトルが違う」
なんて偉そうに品定めしているけれど、吹き抜けを挟んで見えるふーちゃんは本当にどこのお嬢様だってくらいの美少女だ。中学生のときに学年一の美少女と名高かった人 (名前は忘れた)は、確かに美人だったけど、ふーちゃんを見ると格の違いを感じる。
対するふーちゃんのお父さんは、松隆くんのお父さんを見てしまったせいか、超ダンディなおじさまという感じではなかった。でも穏やかな顔つきの優しそうなお父さんだ。あとは、鳥澤くんが「すげー、若いなー」と呟くとおり、多分私達の父親にしては若い。ふーちゃんとは似ていないけれど、確かに、いつしか言っていたとおりの“円満な家庭”を想像させる。
「お、総達も来たな」
「……相変わらずおじ様は年をとらないな」
見覚えのある顔が二つ、またエレベーターに乗ってやってくる。松隆くんはお父さんの身長を追い越してしまったらしい。二人は揃って腕にロングコートを抱えている。背の高い人の特権だ。松隆くんは制服より少しカジュアルなシャツを着ていたけれど、ジャケットを羽織っているので普段より落ち着いて見える。