第四幕、御三家の幕引
 そしていざ、敵陣に乗り込むがごとく、月影くんを先頭に四人でレストランのエントランスに来れば「予約していた桜坂です」「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」と松隆くん達のテーブルから、窓とは反対側に二つ、更にエントランスから一つ離れた席だった。松隆くん親子の背中側に来ているので、松隆くん親子からはどう頑張っても私達は見えないだろう。まさか振り向くなんてことしないだろうし。ただふーちゃんからは私と桐椰くんが見えてしまう。それだけが問題だ。お客さんはしっかり入っているので、空席は窓際にある予約席くらい、私達の話し声も気にされないだろう。

 さて、お店に入って何も頼まずにいるわけにもいくまい、とメニューを開くと、意外にもカフェメニューは良心的な値段だった。それどころか季節のケーキのメニューに桐椰くんが顔を輝かせてテンションを上げてしまう。


「さっきショーウィンドウに並んでるの見てたんだよなー! 季節のタルト、写真よりおいしそうだった! どうしようかな……」

「お前、目的を忘れていないか」

「桐椰くん、私と鳥澤くんのデート尾行してたときも季節のパンケーキみたいなの食べてたよね。松隆くんとキャッキャウフフ仲良くわけっイタタタタタタ」


 ぎゅうううう、といつもより強く頬を抓られた。赤面した桐椰くんが静かにメニューを捲り、飲み物のページにする。鳥澤くんは私とのデートというワードに一瞬気まずそうな顔をしたけれど、桐椰くんの思わぬ素顔への驚きのほうが大きかったようだ。そんな桐椰くんを当然のように受け入れている私達と桐椰くん本人を見比べつつ、「ああ、こういうキャラなんだな」と飲み込みに時間がかかったような顔をしている。桐椰くんとこれから初めて会う人はみんなこのギャップを抱くことになるのかな。


「あ、でもねー、私はこっちのホワイトデーのケーキがいいなー」

「お前は食うのかよ!」

「だってこんなところ、もう二度と来ないもん。折角だから食べたいもん」

「俺は紅茶のケーキがいい」

「で、お前も食うのかよ! なんだよ!」


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