第四幕、御三家の幕引
 さて、そんな月影くんの悪だくみは意外と時間がない。いかんせん、いつ親御さん達が席を立つか分からないからだ。(そろ)ってケーキと紅茶を堪能して「これおいしい! 桐椰くん一口ちょうだい!」「どういう流れだよ。いいけど」なんてまったりしている場合ではないのだ。鳥澤くんの目が「桜坂さんと桐椰の関係って何……?」って言ってるけど、そんなことに反応している場合でもないのだ。


「二人の様子に変わりはないか?」

「ないねぇ……この様子だといつおじさん達がいなくなるか分からないね」

「もう見切りつけていくしかなくね?」

「だから自分のことじゃないからって! つかなんで俺がこっち側なの! 俺のほうがお見合いの様子見とくべきだろ!?」


 うーん、徹頭徹尾正論だ。普段御三家と一緒にいたからこそ鳥澤くんのまともさがよくわかる。最初に会ったときからどこまでも好青年だったけど、やっぱりそうなんだね。


「そんなことは知らん。大体、見えている二人がろくに状況も把握できないのだから同じことだ」

「つまりどうしようもないって話じゃないか!」


 うーん、本当にどこまでも鳥澤くんは正しい。今回はこんなことに巻き込まれて不幸だな。


「いいから準備をしろ。いけるか?」

「いけるか? じゃないだろ!? 行くのか!? 今!」


 機を逸さないように、というよりは面白いもの見たさで急かしているようにしか見えない。可哀想に、鳥澤くん。私は鳥澤くんを使って深古都さんとの取引を完遂してみせるよ。……なんだか私も悪者っぽいな。ごめんね鳥澤くん。


「まぁまぁ。せめて簡単な段取りくらい決めてやろうぜ」

「お話し中失礼します、薄野芙弓さんとお付き合いさせていただいている鳥澤と申します。今回、芙弓さんが松隆くんと縁談を進めているというのでいてもたってもいられなくなりました。どうか僕と芙弓さんの仲を認めてくれないでしょうか。──と言って頭を下げる。以上」


 淀むことなく迷わず答えた月影くんに感心すると同時に首を捻った。それ言えるなら月影くんがやればよくない? まあふーちゃんとあれこれあるから無理なんだろうけど。


「それマジで俺と薄野さんが付き合うことになりかねない?」

「なりかねるかもしれないな」

「それじゃ困るだろ!」


< 308 / 463 >

この作品をシェア

pagetop