第四幕、御三家の幕引
 はぁ、と月影くんは溜息を吐いた。なんでここで偉そうなんだ。


「そうは言っても、止めるためにはこうするしかないだろう?」

「だからそれなら月影か桐椰が──」

「堂々巡りだ、早く行け」

「ちょっ──!」


 どうせいいアイディアも浮かばない以上、いくら考えても無駄だと思ったのか、月影くんが鳥澤くんの椅子を無理矢理引いた。鳥澤くんは揺れた椅子に慌てて立ち上がり、食べかけのケーキのフォークも置くはめになる。慌てて紙ナプキンで口元を拭い「今? マジで今行くの?」と狼狽する。なんなら松隆くん達のテーブルを振り返り「いま静かになってるんだけど気まずくない?」と先延ばしにしようとして「むしろ好機だろう」と却下された。

 くっ、と鳥澤くんはテーブルに手をついて項垂(うなだ)れる。どうにかして逃れる術を模索しているのだろうけど、無駄だ。ここまで来てしまった以上は逃れられない。


「……待って。一回、紅茶飲ませて」

「構わんが」


 だからなんで月影くんは偉そうなのかな……。ただ、鳥澤くんは──もしかして十二月の罪悪感のせいだったら申し訳ないけど──紅茶を一口飲むと、意を決したように再び立ち上がった。おおっ、と何もしてない私と桐椰くんは揃って小さな感嘆の声を上げる。


「……行ってくる」

「頑張れ」

「え、本当にノープランで行かせるの?」

「ノープランなものか。さっき仕込んだじゃないか」

「あれ仕込みじゃねーだろ」

「ほう、偉そうに言うのなら君が鳥澤にアドバイスをしてやればよかったんじゃないか? 余程いい案があったんだろう」

「…………」


 桐椰くんは黙ってケーキを口に運んだ。

 そうこうしているうちに、特攻隊の鳥澤くんが松隆くん達のテーブルへと向かう。ドキドキ、と、私達は遂にケーキを食べる手も止めた。打ち合わせはしなかったけど、鳥澤くんはその気になればある程度なんでもそつなくこなせるタイプ。おそらく今回も無難にふーちゃんの彼氏役をやってのけるだろう。たどたどしさがあっても、かえってそれらしいかもしれない。

 ぐっ、と思わずテーブルの下で拳を握りしめた。これで無事に破談になれば、深古都さんとの取引が成立。頼むよ、鳥澤くん。

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