第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんが時折地図を気にしながら心斎橋商店街を南へ下る。人が溢れて、歩くには波に乗るしかないその道は、イメージ通りのザ・大阪の町だった。因みに桐椰くんと松隆くんは時々大学生みたいなお姉さんに呼び止められたのに無視だった。


「さすが御三家、逆ナンも日常茶飯事なんだねー」

「ナンパかどうか怪しいよね。美人局だったらどうするの」

「王子様って絶対的にモテるのに絶対的に後ろ向きだよねー」


 松隆くんの警戒心は自信のなさの裏返し。うっかり核心をついてしまったふーちゃんの言葉が、松隆くんの胸にナイフとなってざっくり刺さってしまうのが見えた気がした。


「あー、ごめんねー、図星かなー」

「薄野は明日から俺達と別行動でよろしくね」

「コイツすげーな、総にこんだけ攻撃仕掛ける女子見たことねーわ」


 こそっと桐椰くんが私に耳打ちした。そりゃ大抵の女子は松隆くんに好かれる努力しかしないでしょうからね。煽るなんてもってのほかだ。

 そう考えて自分の所業を思い返した。もしかして、私とふーちゃんは松隆くんにとって同類……? でも私は松隆くんの顔はすごく好きだし……。


「ふーちゃんは松隆くんの顔にも興味ないからね!」

「なんだよ急に。アイツ顔面偏差値高すぎてコンプレックスあるんだからそういうこと言うなよ」

「俺に聞こえるようにそういうこと言うのもやめてくれる?」


 やがてパブロに到着し、松隆くんと月影くん以外が歓喜の声を上げた。お店の扉に貼ってあるスイーツの写真が美味しそうすぎて、それだけでテンションが上がる。一番目を輝かせているのが桐椰くんだというのはお約束だ。


「あんまり混んでないと思ったけど、五人で座れるかは微妙かもね」

「適当に別れればいいんじゃないか」


 松隆くんの言葉通り、それぞれ注文した後に二階に行くも、六人席を確保することはできなかった。そして月影くんの言葉通りに適当に別れることとなり……、二人の組み合わせは私と松隆くんとなってしまった。しかもよりによって三人の席とは少し離れた。確かに桐椰くんと二人で座っても複雑な気持ちにはなるけど、それにしたって松隆くんと二人で何を話せと……!

「不満そうだね」

「ひえっ」


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