第四幕、御三家の幕引
が、そんな私達の反応よりも、当然に他のウエイターさん達の反応のほうが速かった。それもそのはず、こんないいホテルのカフェレストランで、お客さんが従業員に水をかけられるなんて、あってはいけない。
そう、松隆くんは唐突に、ウエイトレスさんにグラスの水をかけられた。しかも頭上から、まさにバシャッなんて擬音語がぴったりくる勢いで。私達からは松隆くんの表情は見えないけれど──……ふーちゃんは唇を引き結んで視線をあらぬ方向に泳がせていた。笑うのを我慢しているに違いない。
「大変失礼致しました! すぐにお着換えと部屋をご用意致します!」
「いえ、それはまぁ、いいんですけど」
聞こえた松隆くんの声があまりにも冷たくて、ヒイイイッと私 (と多分鳥澤くん)だけが縮み上がった。本気で怒ったあの王子様の怖さはよく知っている。
「なんで、急に水なんですかね」
……でもなんだかちょっとピントのずれた疑問のような気がした。なんだかその言い方だと「紅茶じゃなくて?」と付け加えられているような気がする。気のせいかな。
「申し訳ございません」
「いえ、僕はそちらの──柿沼さんにお訊ねしているんですが」
ウエイトレスさんの名前は「柿沼さん」というらしい。松隆くんの視線がウエイトレスさんの胸元へ向かったので、ネームプレートを見たんだろう。因みに、松隆くんとふーちゃんのお父さんは二人とも黙って顔を見合わせている。松隆くんのことだから本人に任せるか、とでも思っているんだろう。
「……トウジ、と言われましたけど」
「……だって、トウジでしょう」
「……そう言われる時点で、心当たりはあるのですが」
松隆くんが仕方なさそうに溜息をつきながら、髪から滴る水を拭う仕草をした。ちょうどやってきた別のウエイターさんがタオルを差し出したので、松隆くんが「すみません」と言いながら受け取る。でも軽く額を拭いただけだったから、目に入るのを防ごうとしたんだろう。
「差支えなければ、説明していただいても?」
「大変申し訳ございま──」
「私のこと、遊びだったんでしょ!」
言った──! ふーちゃんが「ごふっ」と奇妙な咳をした。でも確かに、私も目の前でそんな修羅場を繰り広げられたら笑ってしまうに違いない。
そう、松隆くんは唐突に、ウエイトレスさんにグラスの水をかけられた。しかも頭上から、まさにバシャッなんて擬音語がぴったりくる勢いで。私達からは松隆くんの表情は見えないけれど──……ふーちゃんは唇を引き結んで視線をあらぬ方向に泳がせていた。笑うのを我慢しているに違いない。
「大変失礼致しました! すぐにお着換えと部屋をご用意致します!」
「いえ、それはまぁ、いいんですけど」
聞こえた松隆くんの声があまりにも冷たくて、ヒイイイッと私 (と多分鳥澤くん)だけが縮み上がった。本気で怒ったあの王子様の怖さはよく知っている。
「なんで、急に水なんですかね」
……でもなんだかちょっとピントのずれた疑問のような気がした。なんだかその言い方だと「紅茶じゃなくて?」と付け加えられているような気がする。気のせいかな。
「申し訳ございません」
「いえ、僕はそちらの──柿沼さんにお訊ねしているんですが」
ウエイトレスさんの名前は「柿沼さん」というらしい。松隆くんの視線がウエイトレスさんの胸元へ向かったので、ネームプレートを見たんだろう。因みに、松隆くんとふーちゃんのお父さんは二人とも黙って顔を見合わせている。松隆くんのことだから本人に任せるか、とでも思っているんだろう。
「……トウジ、と言われましたけど」
「……だって、トウジでしょう」
「……そう言われる時点で、心当たりはあるのですが」
松隆くんが仕方なさそうに溜息をつきながら、髪から滴る水を拭う仕草をした。ちょうどやってきた別のウエイターさんがタオルを差し出したので、松隆くんが「すみません」と言いながら受け取る。でも軽く額を拭いただけだったから、目に入るのを防ごうとしたんだろう。
「差支えなければ、説明していただいても?」
「大変申し訳ございま──」
「私のこと、遊びだったんでしょ!」
言った──! ふーちゃんが「ごふっ」と奇妙な咳をした。でも確かに、私も目の前でそんな修羅場を繰り広げられたら笑ってしまうに違いない。