第四幕、御三家の幕引
 ウエイターさんがその柿沼さんに頭を下げさせようとするも、柿沼さんは無視した。


「分かってたけど……分かってたけど、私が、あなたに遊ばれたせいでどんな目に遭ったか分かる!?」

「分かりませんけど」

「あなたと遊んだせいで、結婚決まってた彼氏にフラれたんだから!」


 ……それは、悪いのは、誰だ……? 絶対に、聞いていた全員がその反語を共通認識で抱いた。松隆くんがどう遊んだのか知らないけど、それは、誘いに乗ったあなたが悪いのでは……?

「……僕のせいですか?」


 その静かな声は、怒ってるのかただ穏やかなのか分からなかった。ただ私達は食いつくようにその光景を見つめながら、柿沼さんが「そうよ!」と怒るのを聞く。


「だって……だって、あなたみたいな人、忘れられるわけがないじゃない!」


 ……それは、そうかもしれないですね。さきほどほどではないにしろ、聞いていた大体の人が内心そう頷いた。その美貌は見れば分かる。なんなら、近くのテーブルにいた人達にはいかに優良物件であるかも分かるだろう。


「あなたのこと忘れられなくて……そのせいで、彼氏にふられて! それなのに、あなたにはこんなに美人な彼女さんがいて!」


 ……それは、確かに、自分は遊ばれた挙句、本命彼女はどう頑張っても敵いっこないレベルの美少女だった、なんて、残酷かもしれませんね。やはり聞いていた全員がその共通認識を抱いただろう。柿沼さんはそこそこ綺麗だったけれど、ふーちゃんとはやはり格が違った。因みに、さっきまで平謝りしていたウエイターさんは黙りこんでいた。多分、話の続きがきになるんだろう。私も同じ気持ちだ。


「しかも……親公認なんでしょ……そんなの酷すぎるでしょ! 水でもかけなきゃやってらんないでしょ!?」


 さぁ、そこまではどうなんでしょうね……。ちらりと桐椰くんと月影くんに視線を向けると、二人とも肩を震わせて笑っていた。仮にも親友が水をかけられて恥をかかされているのに、そんなに笑ってていいのかな。

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