第四幕、御三家の幕引
(四)感情は合理的に
応接室では、支配人が平身低頭して松隆くんと松隆くんのお父さんに謝罪していた。松隆くんのお父さんは笑って手を振っていたけれど、ホテル側としてもクリーニング代も払わずお詫びもせずというわけにはいかないんだろう。相手が松隆くんのお父さんとなれば尚更だ。
でも松隆くんのお父さんは気にした素振りはないし、松隆くん自身もあまり興味はなさそうにしていた。
「聞けば、息子がそちらのお嬢さんに失礼なことをしたようですし」
なんなら松隆くんのお父さんはその有様だ。自分の息子に、しかもお見合い中に頭から水をかけておいてそう言えるの、素直にすごいな。野次馬な私達は応接室の隅っこに座りながらただ「へぇー」と話を聞くしかできない。
そして松隆くんのお父さんがクリーニング代やらなにやらを受け取らないまま、別の従業員がやってきて「大変お待たせいたしました」と松隆くんに声をかけにきた。多分、着替え用の部屋を用意したという話だろう。さすがに水に濡れたままだと寒いのか、それに関しては松隆くんはすぐに頷いた。
「お言葉に甘えて。すぐに戻りますから」
そして、出て生き様、私達を睨んだ。桐椰くんと月影くんはしらーっと明後日の方向へ視線を向けるが、私と鳥澤くんは蛇に睨まれた蛙だった。ごめんなさい。
「さて、君達はどうしたのかな?」
クリーニング代やらなにやらの遣り取りを終え、支配人が出て行った後、私達を振り返る松隆くんのお父さんに、今度は揃って視線を逸らす。たまたまケーキを食べに来ました、なんて白々しくいうわけにはいかない。
「どこから今日の話聞きつけたの? 松隆くん?」
あなたの執事です、なんて口が裂けてもいえない。
「あ、そうだ、お父さん、みんな学校の同級生。右から二人は松隆くんの幼馴染ね」
「ああ、よく話に出てくる二人か」
ふーちゃんのお父さんは、見た通りの穏やかな人だった。とても松隆グループの一角を占める証券会社の取締役には見えない。なんていうと失礼に聞こえるかもしれないけれど、それくらいおっとりとした喋り方の人だった。近くで見ても、やはりふーちゃんには似ていない。
でも松隆くんのお父さんは気にした素振りはないし、松隆くん自身もあまり興味はなさそうにしていた。
「聞けば、息子がそちらのお嬢さんに失礼なことをしたようですし」
なんなら松隆くんのお父さんはその有様だ。自分の息子に、しかもお見合い中に頭から水をかけておいてそう言えるの、素直にすごいな。野次馬な私達は応接室の隅っこに座りながらただ「へぇー」と話を聞くしかできない。
そして松隆くんのお父さんがクリーニング代やらなにやらを受け取らないまま、別の従業員がやってきて「大変お待たせいたしました」と松隆くんに声をかけにきた。多分、着替え用の部屋を用意したという話だろう。さすがに水に濡れたままだと寒いのか、それに関しては松隆くんはすぐに頷いた。
「お言葉に甘えて。すぐに戻りますから」
そして、出て生き様、私達を睨んだ。桐椰くんと月影くんはしらーっと明後日の方向へ視線を向けるが、私と鳥澤くんは蛇に睨まれた蛙だった。ごめんなさい。
「さて、君達はどうしたのかな?」
クリーニング代やらなにやらの遣り取りを終え、支配人が出て行った後、私達を振り返る松隆くんのお父さんに、今度は揃って視線を逸らす。たまたまケーキを食べに来ました、なんて白々しくいうわけにはいかない。
「どこから今日の話聞きつけたの? 松隆くん?」
あなたの執事です、なんて口が裂けてもいえない。
「あ、そうだ、お父さん、みんな学校の同級生。右から二人は松隆くんの幼馴染ね」
「ああ、よく話に出てくる二人か」
ふーちゃんのお父さんは、見た通りの穏やかな人だった。とても松隆グループの一角を占める証券会社の取締役には見えない。なんていうと失礼に聞こえるかもしれないけれど、それくらいおっとりとした喋り方の人だった。近くで見ても、やはりふーちゃんには似ていない。