第四幕、御三家の幕引
「もちろん、総二郎は納得の上だけれど……確かに、芙弓さんはそうでもないかもしれないな。本当にいいかい?」

「はい、構いません」


 笑顔のふーちゃんはしゃきっと答えた。ね、とお父さんに向かって念押しするあたり、ふーちゃんのお父さんはこのお見合いにあまり関与していなかったか、ふーちゃんの意志を尊重していたかだったんだろう。それにしては親同士が乗り気と聞いていた気がするけど。

 ただ、松隆くんとふーちゃんが、結婚か……。うーん、と私達の間では微妙な空気が流れる。政略結婚って本当にあるんだな、政略ってほどじゃないかもしれないけど親の言う相手って、しかもお互い別の好きな人いるわけだし、そんな結婚がこのご時世でありなのか……。そんな諸々の所感が多分四人の脳内でぐるぐる回っている。


「……総が、納得したんですか?」


 月影くんの口は少し重苦しい。やっぱり、月影くんはふーちゃんに片思いされていることに気付いているのでは……。お見合いぶち壊しはただの悪戯で張り切ってるのかと思ったけど、実はふーちゃんに気持ちが向き始めたから俄然(がぜん)勢いづいていただけだった、とか……。

 ふむ、と松隆くんのお父さんは腕を組んで考え込む素振りをみせた。その様子も、松隆くんによく似ている。


「納得もなにも、総二郎が言い出したことだからね……。あぁ、もしかして、勘違いしてるんじゃないかな」


 松隆くんが? 私達の仰天した顔のお陰か、松隆くんのお父さんが苦笑いと共に付け加えた。


「今回の件は、なかったことになったんだ。薄野さんには申し訳ないけどね」


 ……え?

「……え? つまり総と薄野──さんが付き合うわけじゃないんですか?」


 唖然とした桐椰くんが私達の心を代弁すれば、松隆くんのお父さんはすんなりと「ああ、そうだよ」と頷いた。


「私としては、本当に理想的なお嬢さんだったから、ぜひ総二郎のお嫁になってくれると嬉しかったんだけどね。当人同士が付き合いを望まないのだから仕方ない」


 えぇ……? だって親が乗り気だから、二人は乗り気じゃないけど断りきれないって話だったよね? 私達はなんのためにここに……?

 呆然と顔を見合わせる私達の前で、松隆くんのお父さんは「それにしても」と声を上げて笑った。


< 316 / 463 >

この作品をシェア

pagetop