第四幕、御三家の幕引
「総二郎も可哀想になぁ、こんな可愛らしいお嬢さんにひ弱そうな男は好みじゃないときれいさっぱりふられて」


 ぶっ、と桐椰くんが噴き出し、月影くんも盛大に顔を背けて笑い始めた。ふーちゃんだけがカッとその大きなアーモンド型の目を見開き、顔を赤くしながら「いえ、違います! 違います! 決してそこまで言っておりません!」と必死に弁解し始めた。そこまで、というところに本音が見えている。


「私は、その、松隆くんにはもっと相応(ふさわ)しい女性がいるのではないかと……松隆くんと趣味も似通った、いい女性が!」

「いやぁ、芙弓さんは図書役員だというから、あれと趣味が合うんじゃないかと思ったんだけどね」


 それは読む本のジャンルが違う、と私達は心の中で一斉にツッコミを入れた。松隆くんが読むのは小説の中でもせいぜいSF、恋愛ものさえ読まない。だがふーちゃんは漫画とラノベと、小説と、そしてその中でも──私は知っている──BLが好き。だがしかし、ふーちゃんのお父さんの前でそれを口にすることは、私達にはできなかった。

 あと、多分、松隆くん、破談にするために、お父さんにふーちゃんの第一声を伝えたに違いない──松隆くんは好みじゃないんだよねぇ、って言われたよ、と。もしかしたら、松隆くんのお父さんに事細かに伝えるために、なぜ好みではないのかも聞きだしたかもしれない。そして、自由恋愛主義だという松隆くんのお父さんだ、松隆くんをどこかに落ち着かせたいけれども、ふーちゃんの意志は無視できない、となったんだろう。遊び歩いていた松隆くんの意志はともかく。


「まあ、そういうわけだから、もう君達が見物するものはないわけだ」

「……そういうことに、なりますね」


 落ち着いたところはよかったけど、落ち着き方がなんか違った……。私達は釈然としない気持ちで脱力した。ここに来るまで散々騒いでたのはなんだったんだろう、と。特に呼び出された鳥澤くん。


「ああ、そうだ。私は先に失礼する予定だったから、そろそろ出ないといけないんだ。悪いけど、総二郎への荷物をお願いできるかな」

「あ、はい……」

「薄野さん、すみませんね、息子のせいでこんなことになってしまって」

「いえいえ、とんでもない」


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