第四幕、御三家の幕引
 つい私が松隆くんへの荷物を受け取ってしまい、松隆くんのお父さんは時計を確認しながらすぐに出て行ってしまった。ふーちゃんのお父さんは娘とその同級生たちに囲まれて居心地が悪かったのか「元々先に帰る予定だったから」と帰る準備をし始めた。


「あたしも帰るよ?」

「折角友達が来たんだから、お茶でもして帰ればいいじゃないか。それに──」


 コンコン、と応接室の扉がノックされ、次は誰だと顔を向けると──私が「ひっ」と(おのの)く羽目になった。


「景くんは呼んでるから」

「失礼します」


 扉の入り口には、松隆くんとふーちゃんのお見合いぶち壊し事件を提案した張本人──深古都さんが立っていた。

 びくついているのは私だけだ。なんなら鳥澤くんは初対面なので「誰?」なんて顔をしている。流れ的に薄野家の誰かなんだろう、とは思っているだろうけれど、まさか執事だとは思うまい。なんなら今日の深古都さんは私服だし。

 ふーちゃんのお父さんは「悪いね、急に呼び出して」と深古都さんに謝る。腰の低いご主人様だ。


「悪いんだけど、夕方から付き合いがあって帰らないといけないんだ。芙弓を頼めるかな」

「畏まりました」

「助かるよ、休日までこきつかってすまないね。何か予定があったんじゃないのかい?」

「いえ、特に問題はございませんでしたので」


 っていうか、ふーちゃんのお父さんが深古都さんを呼び出したの、いつ? 私の中で嫌な想像が巡った。もしかして深古都さん、あの場にいたんじゃないだろうな……。


「じゃあ、あとは頼んだよ」


 だが少なくともふーちゃんのお父さんが疑う気配はなく、深古都さんもさも忠実な執事であるかのように深々と頭を下げて見送った。深古都さん……。


「えー、深古都、来るの早いねー。大学生の土曜日なのに予定ないのー?」

「あっても仕事が優先ですが?」

「あたしのお見合いなんて大した仕事じゃないのにー」


 二人の遣り取りを見ていた鳥澤くんがコソッと私に耳打ちした。


「……もしかして、執事とかいわないよな」

「そのもしかしてですよ」

「……お嬢様ってすげぇ」


 分かるよ、鳥澤くん。見たことない世界だよね。分かるよ、私は仲間だよ。


「……それで、お相手はどちらに?」

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