第四幕、御三家の幕引
 当然そんな心は読まれていて、鼻で笑われた。コートとマフラーを脱いで椅子の背にかけた松隆くんは、次はネクタイを緩める。


「俺と一緒だと話すことがなくて気まずいのは分かるけど」

「そんなド直球に言わなくてよくないですか?」


 私の悲しいツッコミにも松隆くんは涼しい表情のままだ。お店を出るまでこの調子で虐められるのだろうか。お陰で楽しそうな残り三人を恨みがましい目で見つめる羽目になった。


「因みに俺は色々と桜坂と話したいことがあったんだけど」

「その言い方、怖いのでやめてくれませんか」

「なんで鹿島と付き合ってるの? 俺への当てつけ?」


 ドンピシャで話題にしたくない質問ナンバーワンを、しかも正解付きで訊いてくるときた。もしかして松隆くんは私の天敵だったのかな。


「当てつけって、いやいや、私松隆くんのこと大好きですし!」

「はいはい、友達としてね」

「いまの回答は私悪くないですよね!?」


 しどろもどろと視線を泳がせてしまったとはいえ、するべき回答はしたはずだ! 一生懸命抗議するとまた鼻で笑われた。思ってもないくせに私の反応を楽しもうとしてそう言ってるんだ、と分かっても狼狽せずにはいられない。


「で、俺への当てつけじゃないなら何?」

「……普通に付き合ってるだけでして……」

「それは桜坂の頭と趣味のどっちかが悪いってことになるけど、それでいいの?」

「よくないんですけど、それ以外の選択肢はないんですかね!」

「ただ、そこまで鹿島に恨まれる心当たりがどんなに探してもないんだよね」


 腕を組んだ松隆くんは椅子の背に(もた)れかかった。


「高校に上がるまで会ったことなんてなかったし」


 それは何度となく聞いた。なんなら、鹿島くんも何もないの一点張り。でも鹿島くんの話しぶりを聞いていると、鹿島くんは松隆くんのことをずっと前から──少なくとも高校にあがる前には知っていたんじゃないのかな。


「……でも、鹿島くんの家も大きい家だよね。繋がりっていうか、関わりはなかったの?」

「ないことはないけど、それは家の話だからね。俺自身は別に。兄さんは知ってるかもしれないけど……そういえば、鹿島の兄弟構成は知らないな」


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