第四幕、御三家の幕引
 そう言われたけれど、私は修学旅行のホテルくらいしか知らないので、十分に豪華だ。独立洗面台があるし、それなりのサイズのベッドが二つ置かれているのに部屋の奥にはソファとサイドテーブルを置くことのできる十分な広さがある。浴室を覗こうとしたら「さっきまで俺が入ってたけど」と言われたので扉に手をかける前にやめた。代わりにソファに座って、人をダメにしてしまいそうなふかふかのクッションを抱きしめる。


「いいね、このお部屋! 気に入った!」

「気に入ったもなにも、ただのホテルの部屋でしょ。……これ、別の着替え?」


 室内見物に夢中になるあまり、持ってきた荷物を思わず松隆くんの手に押し付けてしまっていたことに気付いた。本来の目的とは、ってやつだ。因みに鳥澤くんは、部屋の豪勢さに感心しながらも、ソファに座ろうとする気配はない。松隆くんの前では気を緩めることができないのか。


「それね、深古都さんが持ってきてくれたやつ」

「……薄野の執事の? あの人、絶対俺のこと嫌いだと思ってたけど、そんなことないのかな」


 深古都さんが松隆くんを……? 心当たりがなさすぎて相槌を打てなかった。深古都さんが松隆くんとふーちゃんのお見合いの話をしてるとき、別に松隆くんが気に食わないなんて雰囲気もなかったしな。あるとしたら深古都さんがふーちゃんに横恋慕してるからとかだろうけど、口に出したら深古都さんに地の果てまで追いかけられて抹殺されそうだから、知らんぷりをしよう。


「折角持ってきてくれたところ悪いんだけど、髪、乾かすから。部屋出るのは暫く待ってくれる?」

「はーい」


 着替えを持った松隆くんは、髪を拭きながら一度バスルームに引っ込んだ。暫くすると出てきたけれど、着替えを選んだのが深古都さんだったせいか、いつもと雰囲気が違う。黒のスキニーはともかく、グレーの薄手のセーターは珍しい。ついでに髪も自然にくしゃりとしてるので幼く見える。


「なに?」

「ううん、松隆くんって服装変えて黙ってたら可愛く見えなくもないなって!」

「喧嘩売ってんの、さっきから」

「誉めてるのにぃー」

「あんまり見ないで、これオフ状態だから」


 普段はオンなのかな。何がオンなんだろうな。

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