第四幕、御三家の幕引
『このタイミングで薄野を勧めるのは、そういうことだろ?』

「待ってるの? 全員?」

「ぜ、全員かは分からないけど……その、薄野の執事さんに着替えを持っていくように頼まれたし、桐椰達も待ってはくれてるんじゃないかな」

「ふーん……」

「あ、親御さん達はそれぞれ別の予定があるからって帰ったけど」

「それは聞いてたから、そうだろうけど」

「あ、あの」


 鳥澤くんが扉を開け、松隆くんもごく自然に出て行こうとするところを、思わず引き留めてしまった。二人がきょとんと振り向く。


「どうしたの?」

「……あの、ちょっと……鳥澤くん、先に戻っててくれるかな」

「……うん?」

「すぐ、すぐ追いかけるから! 本当に、二、三分で降りるよ」


 鳥澤くんも松隆くんも怪訝そうな顔をしたけれど、松隆くんが異を唱えないなら自分がそうする必要はないといわんばかりに、鳥澤くんは「そっか、分かった」と、まるですごすごと引き下がるかのような態度で先に出て行った。ゆっくりと閉まりつつある扉の背中を押すように、松隆くんはゆっくりと扉に凭れた。重厚な扉が、ゆっくりと、パタンと音を立てる。


「……何か、俺に話したいことが?」

「……その」

「ん、なに」


 私が言い(よど)んだからだろう、松隆くんは少し柔らかい表情と声で続きを促す。お陰で、少し落ち着いた。


「……なんで、今回……ふーちゃんとお見合いすることになったの?」

「ん?」


 その返事は、誤魔化そうとするでもなんでもない、ただの素朴な疑問を露わにしていた。なぜそんなことを聞くのかと言いたげだ。

 ただ、察しがいいというか、私の考えることなどお見通しというか……。すぐにその表情は変わる。


「ああ、別に、偶然だよ。父親がたまたま薄野本人に会ってね。薄野のお父さんとは元々懇意に──それなりに付き合いのある関係だったから。随分と理想的なお嬢様だってことで、父親同士で盛り上がったというか、話がトントン拍子に進んだというか、それだけ」

「……それだけ?」

「うん、深い理由はないよ。もちろん、去年の今頃の俺が酷かったっていうのもあって、余計に丁度いいってなったのかもしれないけど」


 本当に……そう、だろうか。

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