第四幕、御三家の幕引
 くっ、この深古都さんを影で操る (というか、あくまで深古都さんが勝手に察して動いた(てい)でい続けられる)のずるいな……! 深古都さんが有能な執事過ぎてふーちゃんが何も言わなくてもいいようにしか転がらないんだよな……!

「じゃあ、あの女は桜坂の仕業?」

「え! あの人が私の仕業も何もなくないですか!」


 突然の濡れ衣 (あくまで水をかけられた原因が私なのは濡れ衣だ)に飛び上がりそうなほどに驚く。身に覚えがなさすぎて顔の前で手を横に振ってしまったけれど、逆に怪しい。

 ただ、あれが私達にとって予想外の事件だったのは事実だ。桐椰くんは頬杖をついたまま鼻で笑う。


「あれはお前の()いた種だろ。俺達のせいにすんじゃねーよ」

「それにしては、どうにもでき過ぎてるんだよね。俺としては一応縁談用に顔も作ってたわけだから、雰囲気は少し違うだろうし。大体、一年近く前で明るいところでも見てない俺の顔を覚えてるなんて、恐怖さえ感じる執念なんだよな。女ってそういうとこあるのかもしれないけど」

「うふふ、王子様、亜季も聞いてるんだからねー」


 ふーちゃんに言われるまでもなく、私は自分の表情が凍り付いてしまうのを感じていた。冷ややかな声は幾度となく聞いたことがあるけれど、女性に対してそんな物言いをするところは見たことも聞いたこともない。実際、ふーちゃんの指摘で松隆くんは口を(つぐ)んだ。そういうとこだよ、松隆くん!

「まあ、良いではないですか。結果的に破談になりましたし、それはお二人の要望通りでしたし」

「……深古都さんの仕業じゃありませんよね?」


 不意に脳裏に過った嫌な予感が呟きになってしまった。ザッとみんなの視線が一斉に深古都さんに向けられる。松隆くんの顔には「は?」なんて書いてある。多分「お前が女を唆して俺の頭に水をかけたのか」とも書いてある。非常にまずい指摘をしてしまった気がする。

 しん、と沈黙が落ちた。何も言わないのが答えとさえ思える空気だ。

 ふ、と深古都さんの無表情が、口の端から僅かに崩れた。


「……まさか」

「アンタだろ絶対!」


 珍しく崩れた松隆くんの激しいツッコミ。桐椰くんかと勘違いしそうな口調だったよ。

 興奮のあまり立ち上がった松隆くんが頬をひきつらせながら深古都さんに詰め寄る。


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