第四幕、御三家の幕引
 スルーされた。しかも私を駒として扱っていることを明言した。なんて人だ。どこまでふーちゃんだけの忠実な執事なんだ!

「したがいまして、私の考えた他の手段を決行する必要がございまして……実際に選んだ手段は最も確実でありながら最も過激でしたので、少々躊躇われましたが」


 絶対嘘だ。私達全員が確信した。深古都さん、ちょっと楽しそうにしてるぞ。

 そして、次の瞬間には松隆くんへの嗤笑(ししょう)を隠そうともしなかった。


(あやま)ちほど、利用しやすいものはございませんよ。今後はどうぞ、お気をつけください」


 ビキッ──と松隆くんのこめかみに敗北の青筋が浮かんだ音が聞こえた気がした。深古都さんは私に押し付けるように、例のマル秘ファイルを渡すと「では私はこれで」と深々と私達に頭を下げ、出て行った。言い逃げだ。

 おそるおそる、松隆くんの顔色をうかがう。この王子様がここまで虚仮(こけ)にされるのは深古都さんか、あとは彼方くらいだろう。


「……えーっと……その……」

「……俺も帰る」


 なんと声をかけるべきか悩んでいるうちに、とんでもない形相の王子様は荷物をひっつかると足早に応接室を出て行った。

 再び呆然と取り残される私達。室内には嫌な沈黙が落ちている。


「……薄野の執事って、怖いな」

「……頼れるでしょ」


 桐椰くんとのやり取りに、私達は無言でただこくりと首肯するしかなかった。


「それで、その内容は?」


 松隆くんが最大限拗ねてしまったことなんて最早どうでもいいと言わんばかりに、月影くんは顔を向ける。ふーちゃんは「なになにー? 深古都から何貰ったのー?」と無邪気に私の手元を覗き込む。ただ、表紙にはマル秘としか書かれていない。


「なに? 深古都って探偵のバイトでもしてるの?」

「バイト……ううんバイトじゃないんだけど……」


 ただ、少なくとも、深古都さんがくれたこの冊子には探偵顔負けの情報が書いてある気がする、と無根拠にも信じてしまっていた。


「ていうか、亜季が腹黒王子のこと誘惑したら面白かったのにねー」


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