第四幕、御三家の幕引
どうして、私に会いたがるのだろう。それどころか、食事の席を用意するなんて、話をしようとしていると同義だ。松隆くんのお父さんが、一体、私と、何の話をするというのだろう。
「あぁ、心配しなくても、許嫁だとかそういう話にはならないよ?」
私の表情が硬直した意味をそう捉えてしまったらしく、松隆くんは珍しく軽々しい口調で笑い飛ばした。
「うちの父親、そういうのは嫌がる主義というか、いいものだとは思ってないみたいだから。よっぽど変な女に捕まえられたら話は別だろうけど、基本的には好きにすればいいってスタンスだよ」
「……そういう心配は、してないんだけど……」
「……確かに、何の話を聞かされるのかは疑問だよね」
不意に、打って変わって、その表情が真剣なものになる。その目から感情が消えるのは、松隆くんが考え事をするときの癖だ。
「久しぶりに友達に──桜坂の父親に会いたいっていうなら、桜坂の父親も呼べばいい話。でも桜坂に伝えるように俺に言ったってことは、寧ろ桜坂の父親には秘密で食事をしようとしてるとも考えられるんだよね」
「……秘密、で……」
松隆くんのお父さんがお母さんのお墓参りをしていることを、お父さんは知っているのだろうか?
「だから何か話したいことがあるのかもしれないけど、それは桜坂の……、その、ご両親のことかもしれない」
妙に歯切れの悪い言い方をされたのは、きっと松隆くんが私の家庭事情を察しているから。藤木さんの前で思わず口走ってしまった秘密が、御三家の記憶から簡単に消えてくれるはずがない。そう考えると、御三家は、なんとなく私の家庭事情を察してしまっても、今まで通りにしてくれてるってことか……。
そっと、コーヒーカップを手に取った。揺れる茶色い水面に映る自分の顔を見て──思うところがあった。
「……いつ?」
「ん?」
「……松隆くんのお父さんが誘ってくれた、そのお食事」
「早くても来月か再来月って話だったけど」
「そっか、忙しいもんね、松隆くんのお父さん」
コーヒーを一口飲んだ後、チーズケーキをむぐむぐと咀嚼しながら頷いた。松隆くんの表情は不審げだ。
「いいの? 父親と会食しても何も楽しくないと思うけど」
「お父さんに厳しくない? ……何の話をしてもらえるのか、気にはなるから」
「……そう」
「あぁ、心配しなくても、許嫁だとかそういう話にはならないよ?」
私の表情が硬直した意味をそう捉えてしまったらしく、松隆くんは珍しく軽々しい口調で笑い飛ばした。
「うちの父親、そういうのは嫌がる主義というか、いいものだとは思ってないみたいだから。よっぽど変な女に捕まえられたら話は別だろうけど、基本的には好きにすればいいってスタンスだよ」
「……そういう心配は、してないんだけど……」
「……確かに、何の話を聞かされるのかは疑問だよね」
不意に、打って変わって、その表情が真剣なものになる。その目から感情が消えるのは、松隆くんが考え事をするときの癖だ。
「久しぶりに友達に──桜坂の父親に会いたいっていうなら、桜坂の父親も呼べばいい話。でも桜坂に伝えるように俺に言ったってことは、寧ろ桜坂の父親には秘密で食事をしようとしてるとも考えられるんだよね」
「……秘密、で……」
松隆くんのお父さんがお母さんのお墓参りをしていることを、お父さんは知っているのだろうか?
「だから何か話したいことがあるのかもしれないけど、それは桜坂の……、その、ご両親のことかもしれない」
妙に歯切れの悪い言い方をされたのは、きっと松隆くんが私の家庭事情を察しているから。藤木さんの前で思わず口走ってしまった秘密が、御三家の記憶から簡単に消えてくれるはずがない。そう考えると、御三家は、なんとなく私の家庭事情を察してしまっても、今まで通りにしてくれてるってことか……。
そっと、コーヒーカップを手に取った。揺れる茶色い水面に映る自分の顔を見て──思うところがあった。
「……いつ?」
「ん?」
「……松隆くんのお父さんが誘ってくれた、そのお食事」
「早くても来月か再来月って話だったけど」
「そっか、忙しいもんね、松隆くんのお父さん」
コーヒーを一口飲んだ後、チーズケーキをむぐむぐと咀嚼しながら頷いた。松隆くんの表情は不審げだ。
「いいの? 父親と会食しても何も楽しくないと思うけど」
「お父さんに厳しくない? ……何の話をしてもらえるのか、気にはなるから」
「……そう」