第四幕、御三家の幕引
「あたしはぜーんぜん。ていうか、ケーキ食べたらちゃっちゃと帰るから、ちょっと待っててくれたらあたしは聞かないよー」


 ふーちゃんだけでなく、月影くんと桐椰くんも、とりあえずはケーキと紅茶に舌鼓(したづつみ)をうつことにしたらしい、大人しくケーキの置かれた席に着く。因みに鳥澤くんはもうどんな顔でここに居れば分からないらしく、顔どころか体まで硬直している。

 私は──……。ケーキと書類を見比べる。深古都さんに頼んだのが私だからなのか、鹿島くんの一番近くにいるのが私だからなのか、本日二個目のケーキに手を伸ばす、なんて悠長になことはできなかった。月影くんと同じソファに座りつつも、体は最大限、端に寄った。月影くんの視線を感じたけれど、気付かないふりをして、深古都さんがくれた資料を開く。

 ドクン、と心臓が大きく鼓動した。まだ子細な文字も見えていないのに、気が早い心臓だ。落ち着け、落ち着け……。深古都さんは何も言わなかった、きっと決定的な事実は何もないはずだ……。


「あー、やっぱ俺、ミルフィーユが一番好きな気がする」

「桐椰くんってば、意外と“可愛い”でキャラぶれないよねー」

「どういう意味だよ。……あー、砕けた。好きだけど上手く食えないんだよな……」

「ミルフィーユはナイフとフォークで食べるのが一番だな」


 三人の話し声が段々遠くなる。食い入るように見つめる一ページ目には、まだ何も書かれていない。慎重な深古都さんらしい注意書き──事実と推測は区別して記載しております、常にいずれであるか整理しておいてください、また情報源も念頭に置いてお読みください──が書かれているだけだ。もったいぶらないでよ、と茶化したくなるのに、緊張がそれを許してくれなかった。

 二ページ目……鹿島明貴人と左上に書いてある。書いてあるのは家族構成……そして今となっては既知の事実となった許嫁の存在。

 他にもいくつか項目立てがされていて、頭から読んでいくのは中々骨が折れそうだ。とりあえずは鶴羽樹と鹿島くんの関係を見るか……。

 ページを捲る。鶴羽樹……高校は中退と書いてあった。そして。


「……幼馴染」


 鶴羽樹と八橋夏苗(かなえ)、そして鹿島明貴人が幼馴染であること、と書かれた項があった。

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