第四幕、御三家の幕引
 でも、雅は鶴羽樹から直接聞いたわけじゃない。それどころか、雅が聞いた人だって、鶴羽樹から聞いたわけじゃないだろう。また聞きにまた聞きを繰り返してそういうことになっていた可能性は十分ある。

 例えば、幕張匠のせいで好きな子がいなくなった、とだけ話していたとしたら。死んでいなくなったのを、フラれたのだと勘違いして聞いた人が、そのまま話したのだとしたら。ただの好きな子が、噂が広まる過程で彼女に変わっていたのだとしたら。

『くそみたいな話だけどさぁ、相当恨んでるんだって。だから、女にフラれただけって甘く考えないほうがいいかもな』

 “鶴羽樹と鹿島明貴人の関係性”の項によれば、二人は親友だったらしい。幼馴染四人のうち、二人が姉妹となれば、男子二人が親友であったというのはごく自然な話だ。そしてやはり、海咲さんの死をきっかけに、鶴羽樹と鹿島くんが一緒にいるところはあまり見られなくなったらしい。

 そう、あくまでも一緒にいることがいなくなったのは、海咲さんが亡くなってから。鶴羽樹がいよいよ手の付けられない状態になったのは、海咲さんが亡くなるより前。

 「いつも坊ちゃん風のヤツと一緒にいたから、鶴羽が一人なのは珍しかった」と話した人がいたという。きっと鹿島くんと一緒にいることがなくなった後の話なんだろう。

 その人によれば、鶴羽樹は、鹿島くんのことを「あんなヤツはもうダチじゃない」と話していた。

 鶴羽樹は私を恨んでて、その鶴羽樹は鹿島くんのことをもう友達じゃないと言っていて……、月影くんの事件があった日、少なくとも、私達を現に嵌めたのは、鶴羽樹だった……。


「……え?」


 どうしてか、読めばよむほど、私達を嵌める理由が鶴羽樹にしかなくて──鹿島くんにはなくて──書類を掴む指先に力が籠った。

 鳥澤くんの事件の後、生徒会室で鹿島くんと話しているときに思い出したことを──修学旅行で、彼方に言われたことを──また、思い出す。

『真実なんて誰にも分りやしねーよ。それでもって、藻掻(もが)いて見つけ出した真実は、いつだって想像するより遥かに残酷だ。そんな真実を手に入れて頭を抱えてる姿を見るくらいなら、都合のいい真実に納得してるんでいいんだ』

 鹿島くんの紡いだ言葉は、誰のために都合のいい真実だったのだろう。


< 343 / 463 >

この作品をシェア

pagetop