第四幕、御三家の幕引
 (やぶ)をつついて蛇が出た……! しまった、と自分が青ざめるのを感じる。月影くんが一瞬寄越した視線も憎い、「どうせ幕張のことなんだろう、こんなところで口にするとは、救いようのない馬鹿め」とか思ってるに違いない。確かに私が愚かでした! すみません!

 なんて心の中で悪ふざけをしている場合ではない。間が沈黙に変わってしまい、松隆くんの静かな視線に射抜かれた。

 あの時に黙っててほしいって言ったことは、もう遼も知ってることだよね? そう確かめられている気がした。確かに、あの時松隆くんが口にしたことは、私が幕張匠の家に出入りしていたということ。私と幕張匠とが何か特別な関係にある、というのは、随分前に雅がばらしてしまったことなので、今更バレて困ることはない。

 頷けば、松隆くんは気を取り直したように桐椰くんに顔を向ける。


「二人には話してなかったんだけど、桜坂が転校してくる少し前に、鶴羽に会ってね。その時、桜坂が幕張の家に出入りしてたって聞いたんだ」

「は?」


 でも桐椰くんがそれを聞いて苛立たないはずがない……。分かってた、分かってたよ桐椰くん……。


「ちょっと、ほら、あの時は転校してきたばっかりだったし、桐椰くん達から警戒されてたから、幕張匠の元カノでした~みたいに誤解されたら大変だなって……」

「お前な」

「桜坂と幕張の関係は夏に菊池に聞いている。五月時点でお前に黙っていたことを責めるのは後にして、今は鶴羽ないし鹿島の思惑を考えるのが先じゃないか。時間の無駄だ」


 私にはすごくありがたいけど、すっごくキツイ言い方するな、月影くん……。さすがの桐椰くんもこめかみに青筋が浮かんでいる有様だ。

 こんな空気で話の続きなんてできるのか……? と針の筵の心地で座っていると、月影くんは「話を戻すが」と平然と続け始めた。本当に相変わらずだな、御三家!

「総の話を踏まえると、鶴羽は桜坂と幕張の関係をあえて総に吹き込んだと考えるのが自然だな。当然理由の気になるところだが、いかんせん思いつかない。第一、結果論とはいえ、桜坂が口留めすれば総も俺達には伝えなかった、その程度の情報だったわけだ」

「そうだね……。実際、俺達と幕張の関係なんて、昔々助けていただきました、程度のことしかないし」

「えっ!?」


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