第四幕、御三家の幕引
 不機嫌な桐椰くんにハラハラしていたけれど、松隆くんの思わぬ発言でそんな心配は吹っ飛んだ。なんだって?

「初耳なんだけど!」

「あれ、話さなかったっけ? 夏休みに入る前に話したような気がしてたんだけど……。ああ、そっか、あの時は結局話さなかったんだ」


 記憶を探り、勝手に納得された。いいから早く教えてよ。


「松隆くんが幕張匠に助けられたってこと?」

「そうだよ。遼と一緒にね」

「そうなの?」

「……そうだよ」


 なんだと……。不機嫌ながらも頷いた桐椰くんの隣で、落雷を受けたような衝撃を受ける。

 確かに、夏休み、桐椰くんに「昔会ったことがないか」と詰め寄られたとき、桐椰くんの言う場所には覚えがあった。なんなら、その場所で同い年くらいの男の子を助けた記憶もある。だから、桐椰くんが、あのビルで昔の私に会った、というのならきっとそれは正しい。でも松隆くんも助けられたというのは……。


「あの……その話、詳しく聞いても……?」

「大した話じゃないよ。遥が人質に取られて、遼がボコられたことがあったんだ。後から俺が駆け付けたときには遼は虫の息で、まあ遼がその有様だったから、俺が行ったときには遥は解放されたんだけど、遼に引っ付いてわんわん泣いててね」


 人質……? しかも遥くんを……? 桐椰くんといくつ年が離れているかは忘れてしまったけど、桐椰くんが中学生なら、下手したら遥くんは小学生では……。学校帰りの小学生を拉致、と想像するだけでとんでもなく危険な相手だったことが想像できる。


「発端は万引き捕まえたことだったんだよ」

「え? なんで?」

「商店街の本屋が万引き被害に悩んでてね。駿哉が昔からやたら小難しい本ばっかり読むから、店長が駿哉のこと気に入ってて、俺達もよくしてもらってたんだ。で、万引きで困ってるっていうから、同じ中学生なら油断するんじゃないかってことで俺と遼が見張って協力することになったんだよ」

「で、俺が捕まえて一件落着ってだけの話だったんだけど、もともと色々悪さやってたヤツだったから、逆恨みされたんだよな。恥かかされたって」

「万引きを見つかって恥をかかされたと思うのも随分妙な感想だがな。自分の行動こそ生き恥だと思わないものか」

「月影くん、今日はいつにも増して言葉がキツくない? 気のせい?」

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