第四幕、御三家の幕引
 朧気だった記憶がはっきりしてきたのか、松隆くんの表情は間違いなく苦々しいものに変わった。膝の上で頬杖をついている恰好も含めて、こう見ると王子様ではなくてヤンキーだ。


「まあ(しゃく)だけど、高校生もいたから三人でギリギリセーフだったし、菊池がいてよかったかな……。そういうわけで、俺達が幕張に会ったのはそこが最初で最後」

「なる……ほど……」

「お前、幕張と知り合いなんだろ。そういう話、聞かねぇのかよ」

「聞か……ないねぇ……?」


 不機嫌なままの桐椰くんの声に、しどろもどろと答えた。というか、松隆くんの今の話に心当たりはないし、多分、さっきまで私が考えていた男の子は全然別の人だ。あの時の男の子には、人質をとられて友達もやられて、なんて切迫感はなかった。


「お前達が幕張に助けられたのを見て、幕張の知り合いだと思われたんじゃないか?」

「あー、あの中に鶴羽の友達がいたってこと? 確かにないとはいえないか……」

「でも鶴羽樹と中学が一緒なんでしょ? 幕張匠と仲が良いのかって、松隆くん達に直接聞けば分かるんじゃ」

「幕張匠と仲が良い、なんて、あの界隈だと百害あって一利なしだよ、狙われる危険があるんだから。それなのに、仲が良いのかって聞いてはいそうですなんて素直に答えはしないだろう?」


 それもそうか……。我ながら悪評高いな、幕張匠。


「で、結局どう繋がるんだよ、この話が」

「そもそも何の話だっけ?」

「鶴羽が俺に、桜坂と幕張匠に関係があるってあえて伝えた理由だよ。それを知ったところで、俺達──というか、俺としては、まあ少々放置してても一人で怪我はしないだろうなって思ったくらいで、特にどうというわけでもないんだけど、二人は何か見方が変わったって言えることある?」


 今の松隆くんの言葉も酷いけど、私は聞かなかったことにするからね。


「俺は特にない。幕張との関係の有無にかかわらず、当初は桜坂が怪しい女だと思っていた」

「今は怪しくない、っていうのが最大限のデレなんだって受け取っとくね」

「俺も別に……。いや、俺はどっちかいうと安心したかも……」

「なんで?」


 また素っ頓狂な声を上げてしまった。まさしく月影くんのいうとおり、逆なら分かるけど、安心ってなんだ。幕張匠の話題を避けていたせいか、さっきから驚くことばかりだ。

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