第四幕、御三家の幕引

「いや……。ほら、さっきの話、俺は意識なかったから、あの時に幕張が助けてくれたってのは覚えてないんだよな。でも通りすがりで俺達助けてくれたってことは、別に世間が言うほど悪いやつじゃねーんだろうな、って思ったし……。だから、なんつーか、まああの幕張の知り合いなら、筋の通らないヤツじゃないだろうっていうか……」


 どうやら幕張匠への印象は悪くないどころか良い、らしい……。不機嫌になっていたはずの桐椰くんは、複数の感情が混ざってしまったせいで表情の取り繕い方に困っているようだ。

 そしてそれは、私もだ。思わぬタイミングで思わぬ人から幕張匠(わたし)のいい話を聞いてしまった。いい話、なんて括り方をするのは乱暴かもしれないけど、なんというか。幕張匠には、悪い話しかないんだと思っていた……。


「なるほどね。そういう意味なら俺も同じかもな」

「確かに、お前は直接会ってるもんな」

「ってことは、俺にそう伝えたのは、桜坂を御三家(おれたち)に溶け込ませるためだったのかな」


 え……? 驚いてしまったのは、それが逆転の発想だったからではない。


「コイツを俺達に? どういうことだよ」

「ほら、俺と遼にとって、幕張と仲が良いってことはプラスポイントだろ。ってことは、理屈抜きで俺達に桜坂を信頼させることができる。駿哉は警戒し続けるだろうけど、俺達の信頼を得れば目的は達成できたんじゃないかな」

「だからどんな目的だよ」

「俺達に桜坂を守らせることだよ。簡単に言えば、分かりやすい人質ってこと」

「……そういえば、夏に菊池共々拉致られたことあったな。それこそ本当の狙いは俺達だったわけだけど」

「だから、深古都さんがくれた鶴羽の話だけじゃ分からないけど、俺達が気付いてない鶴羽と俺達の関係──というか、鶴羽が俺達を恨む何らかの理由はあるんじゃないかな。桜坂はその時のために用意された人質」

「分かっちまえば楽だけどな、俺達がいつも周りをうろついてるし」

「だから今まで手を出されなかったのかもね。……どうしたの、桜坂」


 今更怖くなったの、と茶化すような口調で言われた。その通りだけれど、松隆くんが考えている恐怖と、私が感じているものは違う。


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