第四幕、御三家の幕引
「深古都さんの資料に書いてあった事実によれば、『鶴羽は全治二ヶ月の右前腕部骨折という怪我を負っていた』『鶴羽樹の利き腕は右』『骨折の原因は幕張匠』であり、『骨折を理由に幕張匠に復讐することを望んでいた』。やられたらやり返せばいいだけの簡単な話に、復讐というのは(いささ)か大仰だ。骨折したことによる何らか別の方向からの事故が起きたと考える余地はあるだろう」

「そこで着眼するのは、骨折して以来、鶴羽が集中的に狙われてたって話。まあ自然なことだよね、利き腕を使えないなんて攻撃も防御も半減じゃ済まないんだから。もともと界隈で鬱陶しがられてたせいで、その時期に散々痛い目に遭ったらしいっていうのが書いてあるだろ? で、その時期を境に、鶴羽は鹿島と一緒にいるのを一切見られなくなった。で、この時期は海咲さんの手術日と重なるわけだ」

「更に、鶴羽には『幕張に女をとられたらしい』という話がある。この話は、鶴羽に関する情報の中で少し浮いている──要は、突飛だということだ。鶴羽と幕張との関係は、幕張が鶴羽を骨折させたという話しかない」

「挙句、幕張は女嫌いで通ってたんだよね。だから桜坂の話を聞いた時は少し驚いたけど、それはさておき、『幕張に女をとられたらしい』っていうのは、そのまま呑み込むべきじゃない。どこかで鶴羽の言葉が変容して受け取られた可能性が高い」

「所詮は人の噂だからな。だが、だからこそ正しい情報に関する仮説が立つ。鶴羽は、幕張のせいで好きな女性を喪ったとぼやいていたのではないか、と」

「つまり、情報を羅列するとこうなるわけ。海咲さんの手術日前に、鶴羽は幕張に右腕を骨折させられていた。そして手術日の前後に、その骨折が原因で襲われた。海咲さんは手術の結果、亡くなった。鶴羽は幕張のせいで海咲さんを喪ったと話していた」

「総合すれば、幕張に骨折させられたせいで、海咲さんの手術日に襲われ、手術に間に合わなかったんじゃないか、となるわけだ」


 …………。……いや、ついていけなかったんですけど。呆然として桐椰くんを見たけれど、「ちょっと飛躍してねぇか?」と疑問を挟んでいて、どうやら話を理解したことは分かる。なんなんだこの三人!

「ねえ! ちょっと! ついていけなかったんですけど!」

「じゃあ今の話をもとに後で読み直しといて。要はそういうことだろうな、って分かるから」
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