第四幕、御三家の幕引
「鹿島と鶴羽の関係については不可解なところが多く、総と遼との関係についても判然としないが、少なくとも桜坂と鹿島が交際しているのは事実。交際を応諾している桜坂だけが知っている事実があると考えるほうが自然だろう。そう考えて断定したまでだ」


 月影くんめ……! 本当は私が幕張匠だったという最大の秘密を知っておきながら、いけしゃあしゃあと……! 恨みの籠った目で見てしまったせいか、月影くんはいつもの無表情であるはずなのに「いい機会だ、いい加減に告白しろ」と催促されている気がした。くそお。


「だから何もないってば……」

「そうだとすればなぜ鹿島と交際しているのか、納得のいく合理的な説明を聞こう」


 くそ! 月影くんめ! 少しは私の味方になってくれてもいいのに! と心で非難していたけれど、よくよく考えるまでもなく、月影くんは十分すぎるほど私の味方をしてくれていることを思い出した。何も言えない。

 そこでふと気づいた。今日はもう、第六西に拉致(らち)された時点で終わっていたのだ。

 まず三人に囲まれてて物理的に逃げられない。私の定位置が、実はいざという時に逃げにくくするための絶好のポジションだったんじゃないかとさえ思え始めた。

 そして松隆くんと月影くんによる圧倒的な理詰め攻撃。論理ほど高く厚い壁はない。

 挙句、圧倒的に優位にいる月影くんだ。月影くんが秘密を暴露せずに黙り続けてくれていたということは、月影くんに問い詰められたら逃げ場がないということ。そして、今までは「遼達に危害が及ばないのであれば」という留保付きで黙っていてくれたわけだけど、いよいよ鶴羽の存在が見えた段階では、私の秘密など守るに足らぬ、むしろ共有すべき情報に成り下がっている。

 合理的過ぎる思考ゆえに月影くんの行動を読むことなど容易(たやす)い! と高笑いしてやりたい。そんな状況じゃないけど。

 というわけで、終わった。最早隠し通せない。三人に視線を注がれ、がっくりと項垂(うなだ)れた。私が御三家に歯向かうなんてことが間違っていたんだ。


「……鹿島くんとは、鹿島くんが御三家に手を出さないことを条件に付き合いました。黙っていてすいませんでした」


 一体どんな反応をされるのか、身構えていたけれど、なぜか沈黙が漂っている。

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