第四幕、御三家の幕引
 おそるおそる顔を上げると、三人は「そんなことか……」と言いたげな表情をしていた。被害妄想ではなく、そんなこととはなんだ、と憤慨したくなるくらい明白な呆れが三人の表情に出ていた。


「え? なに? なんで私こんな反応されてるの!?」

「あまりにも安い条件なので君が将来詐欺に遭わないか、俺でさえ心配になる」

「君達の身の安全ですけど!?」

「ほら……俺達は何かあっても自分でどうにかできるし……」

「心配したんですよ!?」

「というか、それは鹿島が俺達に手を出さないって話だよね? 鹿島が鶴羽を操ってるって構図ならいいけど、逆か鶴羽自身が勝手にやってるかだったら意味ないんじゃない?」


 …………。何も言えなくなった。確かに、と衝撃を受けてしまったが、松隆くんは「でも桜坂のことだし」と飄々と皮肉げに続ける。


「もちろん、鹿島が黒幕なんだって確証を持って呑んだ条件なんだよね?」


 …………。……確かに、全ての事件が鹿島くんの仕業なのだと聞かされたときには、鹿島くんが黒幕だったのだと思った。……思い込んだ。

 でも根拠は鹿島くんの言葉以外になかった。つまり、確証なんてなかった。

 そのことに気付いたのは、この間、深古都さんの資料を読んだときだった。鹿島くんはすべての事件の黒幕だったかのように語ったけれど、鹿島くんには何の動機もなかった。目を皿のようにして探したけれど、鹿島くんには御三家とも、幕張匠とも何の関わりもなかった。関わりがあったのは鶴羽樹だけだ。

 松隆くん達の推理によれば、鶴羽樹には、私のせいで海咲さんの手術に立ち会えなかったという動機がある。鹿島くんの動機は、せいぜい、かつての親友の()さ晴らし (なんて言ってはいけないかもしれないけど)に協力することくらいだ。でもやっぱり協力する理由がない。それなのに全部の黒幕だったと(ほの)めかした。

 その矛盾への説明は、“鹿島くんは黒幕を演じていた”くらいしか思いつかなかった。

 それはさておき、今は松隆くんの笑顔にどう対応するべきかが問題だ。最早殺意さえ感じる。


「えっと……それはその……」

「どうせ鹿島の口車に乗せられたんだろう。君は時々直情的に動くからな、鹿島の挑発に乗って勝手に勘違いして唯々諾々(いいだくだく)と条件を飲んだんだろう。全く頭が悪い」

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