第四幕、御三家の幕引
「建仁寺は徒歩二十分弱だが、金閣寺はバス移動で一時間弱かかる」

「物理的に行けるとしても、金閣寺は拝観時間ギリギリじゃない? 建仁寺を諦めてなんとかなるか程度……」


 松隆くんが暫く反対していたけれど、月影くんが神社仏閣に関してだけは頑固に譲らなかった。結果、散策ルートは結構過密スケジュールで、しかも基本徒歩になった。天気が悪い場合には却下一択だ。幸いにも晴れ予報ではあるけれど。

 お陰で、夕食を終えた後も御三家は三人で地図を覗き込んで優先順位を決める作業をしていた。デザートを食べながらその様子を眺めていると、ふーちゃんが先に立ち上がる。


「女子のお風呂、混みそうだから、あたしもう行くねー」

「あ、私も」

「二人は希望ないの?」

「あたしはないなー」

「私も。適当に三人が決めたとこについて行くね」

「了解」


 ただ、三人も席を空けるために立ち上がった。代わりに桐椰くんの部屋に集まることにしたらしく、エレベーターに乗った後は三人揃って同じ階で降りた。


「亜季の部屋、何号室だっけ?」

「五〇七号室。ふーちゃんは?」

「あ、二つ隣なだけじゃーん。じゃあ準備できたら亜季の部屋行くね」


 関西旅行組が少ないお陰だ。というか、その距離なら八橋さんと交代してほしい。

 まだ八橋さんと話してないのでなんともいえないけれど……、とおそるおそる部屋に戻ると、ベッドの上に座る人影が素早く振り向いた。


「あ、えっと……おつかれさま……」

「……お疲れ様」


 その小さな声を聞いて、声を聞いたのが文化祭準備期間以来だと気付いた。お陰で最初の挨拶以外は重たい沈黙が落ちる。


「……お風呂、行ってくるね」

「……うん」


 そさくさと荷物を準備する時間も気まずい。何か話しかけるべきかもしれないけど、鹿島くんを“気になる異性”に選んだ八橋さんに私が何の話題を振れるというのか。というか、下手したら八橋さんから鹿島くんの話題を振られる可能性があるのでは? そう考えると手の動きが我ながら早くなる。


「……あの」

「えっ」


 が、荷物を持った瞬間──表現は悪いかもしれないけれど──捕まった。顔を上げた瞬間に頬はひきつってしまうし、八橋さんも視線を泳がせているしで気まずさが沈黙の二割増しになった。それでもって八橋さんが続きを話す気配がない。

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