第四幕、御三家の幕引
「私だけ()け者!」

「鹿島の彼女に勝手に成り下がっているのだから仕方があるまい」

「さらっと罵倒しないでよ。ね、どういうこと?」

「危機回避はできそうだ、ということだ」

「なに……?」


 この文脈での危機回避というと鶴羽樹のことだけど……。じゃあ鶴羽樹の今後の行動はもう読めてるってことなのかな。それなら、さっきまで深古都さんの資料内容の読み合わせをしてたのは何だったんだろう……。


「……もしかして私にも秘密に話を進めてない?」

「はは」

「何その『は』を二回言っただけみたいな笑い方! 渇いた笑い方にも限度があるよ!」

「まあ、君のすべきことは鹿島と別れることだけだ。それ以外、特に行動を伴う協力を申し出る予定はないので安心しろ」


 相変わらず妙な留保がついている。一体何なんだ、とどれほど頭を捻っても答えは分かりそうにない。


「……月影くん達こそ、何か私の知らないことを知ってるんじゃない? 何かヒントちょうだいよ」

「……ヒントか」


 私の知らないことを知っていること自体は隠す気がないらしい。黙示的に肯定しながら、月影くんは少し考え込んだ。


「そうだな……。先日怪我をした三年生は、その後ろ姿が遼によく似ていたという噂がある。これで分かるだろう」

「分かんないよ……。というか、その話は松隆くんから聞いたよ、写真も見せてもらったもん」


 確かに桐椰くんっぽく見えなくもなかったよ、と付け加えると鼻で笑われた。


「問題の本質はそこではない。俺の言葉をもう少し正確に解せ」

「ん……?」


 ますます首を捻ってしまう。いまの私の言葉と、月影くんの言葉との何が違ったというのだろう。


「だから、桐椰くんと間違えて襲われた可能性が高いってことだよね? 桐椰くんなら腕っぷしは大丈夫だろうけど、気を付けないとっていう。松隆くんも帰り際にそんなこと言ってたし」

「そういった話ではない」

「うーん?」


 でも確かに間違っていて、月影くんはそのヒント以上を教えてくれるつもりはないらしい。ローファーに履き替えた後は、いつもの鬱陶しそうな表情のまま、顎で外を示した。


「ただでさえ遠回りなんだ、早く歩け」

「いやいや、月影くんは自分の足の長さを自覚したほうがいいですよ!」

「自覚したうえで俺に合わせろと言っている」

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