第四幕、御三家の幕引

(二)手中に握り締めた檻

 朝、学校に行くと、桐椰くんは、生徒会役員として卒業式の準備に駆り出されていた。でも、どうやら準備だけが忙しいらしく、ホームルームが始まる少し前に帰ってきて「あー疲れた」とぼやきながら、ぐったりと机に突っ伏した。

 いそいそとその座席の前に座ると、お休み中の犬が顔を上げるがごとく、顔が半分だけ持ち上げられる。


「お疲れ桐椰くん。もうやることないの?」

「ああ、式の進行は教頭とかだし、送辞を読むのも鹿島だし……。まあ、例年だと副会長も在校生代表のお飾りはやるっぽいけど、一応任意だし、俺は知ってる先輩もいないから行かなくていいかなって感じだな」


 卒業式は午後からで、在校生は自由参加という名目のお休みだ。出席するのは生徒会の指定役員だけ。会場は生徒会選挙のときに使われた御条(みすじ)講堂なのだけれど、保護者席を確保すると在校生の座席は足りないからだろう。いかんせん、一族みな花咲高校です、なんて家は祖父母まで卒業式に来るのだとか。


「それこそ南波(みなみ)は部の先輩いるから出るし」

「誰だっけ、それ」

「お前マジかよ。副会長だよ、もう忘れたのか」

「あー、そういえばそんな人いたね」


 金持ち生徒会ではなくなった今、警戒する必要がないから覚えていないのだ。でも、桐椰くんが呆れ顔になるから、ふんふん、と真剣に頷いて覚えるふりをしておいた。


「卒業式が終わった後も片付けするの?」

「まあ。でも片付けるもんなんてあんまないからな。中学のときは体育館に椅子並べる形式だったから後も大変だったけど、講堂あるってありがたいよな」

「ふーん、そっかそっか」

「なんだよ。何か用事か?」

「ううん、聞いただけ」

「なんだよ」

「三年生ってみんな午後から来るの?」

「いや、午前から来てる人もいる。てか、大体の人が進路も決まってるから雰囲気が明るかったなあ」

「そうなの?」

「大体の人は私立受験だから。二月の間に結果出てるんだよ。一年のときに生徒会長やってた人は順当に早大だし」

「え、そんなに頭良いの?」

「知らねーよ。生徒会長やってたヤツが毎年貰ってる指定校推薦だから」


 驚いてしまったけれど、なるほど……。花高の進学実績に関しては、編入する前にパンフレットを読んで知っている。人数のわりには早慶進学者数は少なく、その代わりコンスタントにいる印象だった。あとは都内の公立か、地方の国立が少し。
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