第四幕、御三家の幕引
「……もう一回分けて聞くけど、まず、鹿島くんが透冶くんを自殺させたっていうのは嘘だよね? そうなんだよね?」

「…………」


 鹿島くんは、机に頬杖をつき、顔ごと目を逸らした。それでも、そっぽを向いているとかそういうわけではなく、やっぱり答え方を探しているように見えた。そして、私でもそう分かってしまえるのは、皮肉にもこの数ヶ月間の成果だった。


「……知らない」


 しばらく経って返って来たのは、適当ではない、正確に答えようとした結果、適当になってしまった答えだった。

 修学旅行のとき、彼方に言われたことを思い出す。──透冶くんが死んだ理由は、どれが本当だと思う?──あの言葉の意味。


「……知らないっていうのは、透冶くんがどうして死んだのか、分からないからだよね」

「そうだな」

「鹿島くんが透冶くんに仕事のあれやこれやを聞いたのは本当なんだよね」

「そうだな」

「でも、そのせいで透冶くんが余計に追い詰められたかどうかは鹿島くんも知らないってことだよね」

「そうだな」

「もしかしたら、鹿島くんのせいで透冶くんは自殺を決意したのかもしれないってことだよね」

「そうだな」

「……鹿島くんには、透冶くんが自殺するように……仕向けるつもりは、なかったってことだよね?」

「そうだな」


 淡々と変わらない返事は、まるでロボットのようだった。

 ロボット……。ふと、ずっと分からなかった鹿島くんの正体が見えたような気がした。

 息を吐き出すことすらなく、ただ無表情で、鹿島くんは淡々と続けた。


「……俺は、当時の生徒会長として、雨柳と話をしただけだ。教師が事件を公にしないと決めたのなら、少なくとも俺はそれに従うしかない。雨柳には悪いが、事件の隠蔽(いんぺい)のために生徒会の仕組みを変えるし、そのために雨柳にも辞めてもらうことを話した。それ以外にも、まあ、ちらほらと事件の話はしたけど……」


 説教する立場でもなし、世間話程度のことしか言わなかったよ、と。そう付け加えて、これ以上説明することはない、と言わんばかりに口を閉じてしまった。

 じっと見つめ続けても、鹿島くん自ら口を開こうとはしない。きっとそれ以上のことは、鹿島くん自身、想像か憶測でしかなくなるからだろう。


「……それで、その嘘を吐いたのは、どうして?」

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