第四幕、御三家の幕引
 思わず耳を疑った。逆にその程度? キスした程度? なに? 鹿島くんにキスされた後に私を心配してくれたのは演技? なんなのこの似非王子? あー、あれだよね、照れだよね、それか意地だよね。知ってるもんね、松隆くんの意地っぱり!

「現に目を付けた馬鹿がお前達だな」


 いいぞ月影くん、もっと言ってやれ。


「俺は一般論の話をしてるんだよ。鶴羽の計画に俺達の心理が織り込み済みなわけないだろ」


 出た出た、王子様のプライドの高いことエベレストのごとし!

「単純接触原理だな。桜坂の好感度を上げておいたところで手を出す。自分のものに他の男が手を出せば気に食わない、というのは分かりやすく一般的な心理だと思うが」


 またよく分からないツッコミが出てきた。心で(はや)し立てることができない。


「それが思わぬ形で功を奏したってこと? なんか気に食わないな」

「気に食うか食わないか別として、事実なんじゃないか。それに、これは前回の話とも筋がとおる仮説だ。単純接触原理だけでなく、そもそも桜坂が幕張匠の関係者だと伝えておけば、当初からお前と遼の信頼を得やすく、よって俺達に溶け込ませるのが簡単になる」

「じゃあそうだとして、俺達が桜坂にキスするなんて気に食わないな、って鹿島のことを思い始めたとしても、それが鶴羽の隠れ蓑にまでなる?」

「すいません、そういう話は私がいないところでしてもらっていいですか?」


 とりあえず、私のキスネタはもう十分だ。耐えられなくなって慌てて口を挟んだのに、松隆くんと月影くんは「なんで?」なんて顔をしている。実は松隆くんも、デリカシーあるふりをしてるだけで本当はないんじゃないかな!

「では桜坂と鹿島のキスの話は()いておくとし」

「そういうことも言わなくていいから!」


 月影くんは、実はデリカシーがないふりをしてるだけで、本当はあって敢えて言ってるんじゃないかな。なんなんだこの二人。


「鶴羽の隠れ蓑にはならなくても、鹿島に注意を向けることができれば十分だった可能性はあるだろう。実際、ことあるごとに、妙に詳しい情報を持っている鹿島は不可解だった。俺と鳥澤の一件のときに鶴羽が出てこなければ、そのまま鹿島に目を向けたままになっていた可能性が高い」


< 377 / 463 >

この作品をシェア

pagetop