第四幕、御三家の幕引
 そして、結局平然と話を続ける……。残りのジュースを飲みながら、ちらちらとトイレの方向を見て、桐椰くんが帰ってくるのを待つ。早く帰ってきてくれないと、ストッパーのない二人の会話がどうなるか分かったもんじゃない。


「そうなると、鶴羽が出てきた理由が分からないよね。そのまま鳥澤にやらせればよかったのに」

「鳥澤にそこまでの度胸がないことくらい分かったんだろう。もしくは、裏の裏ときて、鶴羽を隠れ蓑に鹿島が動いているか」

「鹿島が桜坂に、自分が協力してる側に過ぎないって言ったのは嘘ってことだよね。その嘘を吐いたところで、俺達のリンチか桜坂の拉致、どっちかがやりやすくなると思う?」

「ならないだろうな。さすがの桜坂も、鹿島が協力者に過ぎないのであれば恐るるに足らず、などという安直な思考はしないことは分かっているだろう」


 そして突然挟まれる私への罵倒……。ツッコミを入れるべきなのか悩んだ。


「ということは、鹿島が嘘を吐く理由がないから、鹿島が協力してる側だっていうのは本当な気がするんだよね。だったらやっぱり、鳥澤の一件でわざわざ鶴羽が顔を出した理由がない」

「使う人間がいなかったで済む話とは言えないか」

「言えなくはない、けど人を使って裏でコソコソやってた割には、結構あっさり表に出てきたなって印象。やっぱり鹿島が糸を引きながら見物を決め込んでたってほうがしっくりくるけど……」


 動機がなぁ、と松隆くんは顔をしかめた。その渋い顔のままコーヒーを(すす)る。そこで桐椰くんが戻ってきて「何の話?」「結局鹿島は黒幕ぶるのが役目だったわけだから、鶴羽はそのまま鹿島の陰に隠れてればよかったのになんでわざわざ出てきたんだろうなって」と推理に合流する。


「ああ、鳥澤の件で派手に出てきたんだもんな。って考えると、やっぱ鹿島のほうが黒幕?」

「って考えたくなるし、実際、八橋家の許嫁に関しては鹿島のほうが当事者なんだけど、ただ、鹿島がそういうふうに他人を逆恨みする人間には見えないんだよな。それこそ遼から聞いてる限り」

「あー、うん、そうなんだよな」


 うーん、と困ったように桐椰くんは髪をくしゃくしゃと乱暴に混ぜた。確かに、桐椰くんが以前話していた、副会長としての立場から鹿島くんを見た感想は、要は“至極まともで有能な人だ”ということだった。


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