第四幕、御三家の幕引
 本当にスパイみたいだな……。でもきっと、話さないことには解放してくれないだろう。仕方なく口を開けば、ガチャッと扉の開く音がして、ふーちゃんが廊下に顔を出した。そのせいで口を噤む。何か言われるだろうかと身構えたけれど、ふーちゃんは「先にお風呂いくねー」と断って通り過ぎただけだった。


「≪どうかしたか?≫」

「……なんでもない。薄野さんとお風呂行く約束してたから」

「≪あぁ、それなら余計に早く報告してくれたほうがいいんじゃない?≫」


 先にお風呂に行かせる選択肢はないのか……。苛立ちでスマホを握りしめた。御三家のこと抜きにしても鹿島くんが彼氏なんて願い下げだ。


「でもそれ以上話すことなんてないし……修学旅行だからってドッキリなイベントがあるわけじゃないんだよ」

「≪じゃあ桐椰と何もなかったと?≫」

「ないです。その手には乗りません」


 前にも似たようなことがあった。ここで動揺したら鹿島くんの思うつぼだ、と自分に言い聞かせる。どうせ鹿島くんは何も知ることはできないんだから。

 それなのに、鹿島くんは不敵に笑う。


「≪ふーん、そう。何もなかったことにするんだ?≫」


 ……それなのに、私には鹿島くんを読み切れない。


「……心配しなくても私は明貴人くんから浮気しないよ」

「≪それは結構。そのくせ彼氏の近況は気にならないんだ?≫」

「明貴人くん構ってちゃんなの? じゃあ聞いてあげるから適当に札幌観光の話してくれていいよ」

「≪旅程初日は小樽なんだけど、俺の彼女は札幌と小樽が別の場所と知らないのか、北海道旅程を入れるほどの頭の容量がないのか、どっちかな≫」


 皮肉を言えば皮肉で返ってきた。ぶちっと自分の頭の中で何かが切れる音がしたけれど、電話を切るわけにはいかない。


「すいませんね頭が悪くて。何をしていたかご教授願えますか」

「≪小樽の雪景色は幻想的だったよ。ぜひ彼女と見たかった≫」

「ふーん、そんなこと言う可愛げが明貴人くんにもあるんだ」

「≪一定割合の彼女は彼氏のことを可愛いと思うものだと思ってたけど、俺の彼女は違うんだ?≫」

「言ってるでしょ、桐椰くん並みに可愛くなってからそのくらいの自信もってよ」


 意図も不明なのに話が長くなりそうで嫌気が差す。そろそろ声に拒絶反応を示してしまいそうだ。


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