第四幕、御三家の幕引
今度は鹿島くんが頬杖をついて呆れる番だ。
「北海道がどうとか、言ってなかったか? やめたのか?」
「やめたわけじゃないけど……。判定がいいわけでもないし、こだわる理由もないし……」
「家を離れることができればいいんだもんな?」
「…………。なんだかなー」
油断すると、うっかりそのまま進路相談でも始めてしまいそうになるので、慌てて誤魔化した。
「三年生見てると、やっぱり合格してるのいいなーって思うよね。ほら、少し前に一気に私立の結果出たじゃん? あの頃から、学校の雰囲気、ゆるゆるしてない?」
「一番気が緩む時期ではあるだろうな」
「今年一番成績良かったのって誰なの?」
「実績の観点では、一昨年生徒会長をやってた先輩が行った早稲の政経が一番だな。国公立の発表はいま職員室でまとめてるところだけど、例年通り国公立の成績は芳しくないだろうな。来年の御三家に期待ってところだろ」
確かに、来年の進学実績は例年に比べて随分華々しくなるんだろうな……。あの三人がドカドカといい成績を叩きだしているのは嫌というほど知っている。
「ところで、別れた後までなんで来るんだ。もうここにいる理由はないはずだが」
「理由はあるよ。まだ肝心なことは聞けてないもん」
「何か話しそこねていたことがあったかな」
「惚けないでよ。何も聞いてないようなもんだよ」
「俺が君にキスした理由なら俺を黒幕だと思わせたかったからだが、これで解決したか?」
「……。……あの、男の子って、そういうことをあけっぴろげに話して恥ずかしくないんですか?」
「君にキスしたところで感情は無なので恥ずかしいもくそもない」
「最ッ低!」
机の上にあった鉛筆立てを鹿島くんに向けてぶん投げると、当然避けられた。そのまま背後の窓ガラスに当たり、ガシャンッ、バラバラッ、とプラスチックケースとペンが床に散らばる。
「あの時は怖かったんだからね!?」
「窓が割れたらどうする」
「話聞いて!? 謝って!?」
「今更何を」
だめだ、何を言っても暖簾に腕押し。逆に怒りと恐怖がどこかへ行ってしまった。人ってやるせないときはこんな風になってしまうんだな……。