第四幕、御三家の幕引
「……役割が終わったとかなんとかいうんだったら、私にキ……痴漢したことを謝ってくれてもいいんじゃないかな」

「樹に協力してることから謝罪を求めなくていいのか」

「ちょっと困惑してみせるのやめてくれない? そりゃもちろん、そこから謝ってほしいけど、どうせ謝ってくれないじゃん。あと約束ってなに?」

「もう君に話すことはないと言っただろ、さっさと出ていけ」

「……鹿島くんは、結局なんなの?」

「なに、とは?」

「鹿島くんは、何が目的だったの?」

「さあ、なんだったんだろうな」

「……理由は海咲さんだよね?」


 カン、と、不意に大きな音が響き渡り、肩が震えた。鹿島くんが机にペンを置いた音だった。

 怒った……? と恐る恐る様子を窺ったけれど、鹿島くんは原稿の推敲(すいこう)を止めず、少し俯き加減のままで、なんならいつもの無表情だった。


「捗らない、って言ってるだろ。早く出ていけ」


 声の調子も変わらない。でも間違いなく、さっきの行動は、鹿島くんが本心を隠せなかった一瞬だ。


「……そう、です、ねー……」


 今は、どんなおどけたふりをしても意味がなさそうだ……。というか、鹿島くんの怒ったところを見たことが数えるほどしかないので、怒られるのが怖い……。

 そさくさと扉のほうへ逃げ、「失礼しました……」とそのままゆっくり退散する。鹿島くんはやはり顔も上げなかった。

 松隆くんに報告すべく、その足で七組に向かいながら、前回鹿島くんが怒ったのはいつだったか思い返す。確かクラスマッチの日で……グラウンドで、怒ってたんだよな……。怒ってたというか、苛立ってた……? いつも飄々(ひょうひょう)としてる鹿島くんが、珍しく感情を()き出しにしてたように見えて、しかも首まで絞められて、びっくりしたどころじゃ済まなかったことを覚えている。

 さっき鹿島くんが怒ったのは海咲さん絡み (だと思う)。ということは、あの時も海咲さんに関する何かで怒ってたのかな……。

 悶々としながら七組に行くと、松隆くんは珍しく御三家以外の友達と談笑中だった。窓辺に寄りかかっていると足が長いのがよく分かる。つくづく、見た目だけは王子様なんだよな……。


「ああ、桜坂、終わった?」


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