第四幕、御三家の幕引
 私に気付いてこっちを振り返るときだってやたら仕草がスマートだ。無駄美貌(びぼう)だ。


「……終わった」

「何か珍しいことでもあったの、その反応」


 廊下の窓から話していたけれど、教室を横切るような喋り方だったので、松隆くんのほうが廊下までやってきてくれた。


「いいの? 珍しく桐椰くん以外と話してたのに」

「余計なお世話。いいよ、別に、ただの情報交換だったし」

「何の情報?」

「ほら、この間、三年の先輩の話をしただろ。その先輩の周辺の希望役員の話とか、聞いてたんだよ。そうすれば行動の予想がつくから、多少対策をとりやすくなるかなって。まあ、希望役員が何してきたってたかが知れてるんだけどさ、俺達男だし」


 そういえば、指名役員だったかなんだか忘れたけど、私も生徒会役員の男子に襲われそうになったことあったな……。“そういえば”なんて言えるほど軽い話じゃないんだけど、私の中ではすっかり風化してしまったし、松隆くんの怖さのほうが印象に残り過ぎて、怖いとは当時からあまり感じていない。あれに笛吹さん事件なんて名付けている私の肝は()わりすぎておかしいのかもしれない。


「でも男子には男子なりの嵌められ方があるっていうのは、ほら、その、月影くんので分かってるじゃん」

「まあね。その点は気を付けるけど、俺と遼の二人が揃って鶴羽に脅されることはないだろうし、多分大丈夫かな」


 確かに、月影くんの件だって、私を人質にとることができたからできたこと……。私を人質にとることができず、松隆くんと桐椰くんが二人でいるとなれば、あんな嵌め方はできないだろう。

 ……考えれば考えるほど、鶴羽樹が二人を(おとしい)れることはできなさそうなんだけどな……。結んだ髪をくるくると指で捩じりながら、うーん、と考え込む。

 ただ、御三家は変わらず警戒したままだ。それどころか、月影くんは、松隆くん達の推測には、私が幕張匠だという前提が抜けていると言った。それは分かっている。でもじゃあ、鶴羽樹が私自身を狙うとして、一体何をするのだろう。松隆くんと桐椰くんがいれば私に手を出すことはできない。

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