第四幕、御三家の幕引
「他に話すことある? ないなら切るよ、私お風呂行くから」

「≪そうだね、明後日からはスノボだから怪我しないように祈ってくれてていいよ≫」

「寧ろ両足折って机から動けなくなるくらいが仕事熱心な生徒会長としては本望なんじゃないのかな」

「≪お土産は硝子細工にしたけど、別に問題ないよね≫」

「あぁうん、別に持って帰るの私じゃないから面倒なわけでもないし、どうでもい──はい?」


 歩き出しながら適当に流そうとして、頓狂な声を上げてしまった。お土産?

「何の話?」

「≪お土産って言っただろ。短期記憶障害にでもなったのか≫」

「いやあの……要らないよね?」

「≪彼氏が買ってきたお土産を不要物扱いするほどデリカシーのない女なのか?≫」

「もうどこからつっこめばいいのか分からないんだけど、え、何で鹿島くんが私に旅行のお土産買ってるの?」


 動揺のあまり思わず苗字で呼んでしまったし、誰に聞かれてもおかしくない場所なのに不用意な発言をしてしまった。慌てて辺りを見回して、誰もいないことを確認して、ほっと安堵しながらエレベーターのボタンを押す。


「≪彼氏は彼女に買うものだろ≫」

「えーっと、だって私達は所謂普通のそれではないよね?」

「≪普通をどう定義するか次第かもしれないけど、付き合ってるって形があることには変わりないんだから。彼氏が彼女にお土産買ってるだけだと思えばいい≫」

「……私に何を期待してるの? 言っとくけど明貴人くんに払えるお金は一円もないよ」


 幸いにもエレベーター内には誰もいないので言葉を選ぶ必要はなかった。大浴場のある別館への連絡路のある階を確認しながらボタンを押す。


「京都で高い小物でも買ってこいっていうんですかね」

「≪お土産は見返りを期待して買うものじゃないけど≫」

「だからなんで明貴人くんが私に──」

「≪彼氏だから。何度も言わせるな≫」


 呆れ交じりだけど、本当に心底理解できないで内心の動揺が収まらない。小樽の硝子細工がおいくらほどかは知らないけれど、多分ピンキリではあって、そもそもお金持ちの鹿島くんからしたらはした金というか、一つお土産になりそうなものを買ったところで大した出費ではないだろう。そうだとしても結局買う目的は……。

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