第四幕、御三家の幕引
 御三家の予想では、鶴羽樹が私を人質にする可能性は低かった。理由は、私を拉致することが難しそうだったから。でも、私達は、鶴羽樹が白昼堂々学校に乗り込んで来る可能性を失念していた。鶴羽樹が、鹿島くんの制服を借りて乗り込んできたいま、御三家の予想は外れたということになる。きっとこの後、私はどこか怪しい廃ビル──それこそ、月影くんの事件のときに雅が監禁されていたところかもしれない──に連れていかれ、そこへ松隆くんと桐椰くんが(おび)き寄せられることになるのだろう。

 でも、それなら第六校舎へ連れて行く必要はない。第六校舎であることに意味があるとすると、思い当たるのは御三家のアジト。でも、御三家のアジトに行って何の意味が……? 鶴羽樹の私への対応を見ていると、第六西で犯されるわけじゃなさそうだし……。少し楽観視し過ぎだろうか。


「めちゃくちゃ大人しいじゃん」


 人気(ひとけ)がないからか、鶴羽樹が話しかけてきた。聞きたいことはたくさんあるから、喋る気があるというのは好都合だ。


「……ナイフ持ってる相手に騒いだって、逃げられないでしょ」

「そうだけど、そういう話?」

「制服、鹿島くんから借りたの?」

「ああ、ちょっとキツイな」


 背後で鶴羽樹が歩く以外の動きをした気配がする。多分ネクタイを緩めたんだろう。下手に教師に呼び止められないためか、その制服の着こなしは優等生そのものだった。


「……今日は、鹿島くんはどうしたの?」

「さあ、知らねーよ」

「なんで? 今まで鹿島くんに協力してもらってたんでしょ?」

「今まではな。肝心な今日に限って、いつまでたっても来ねーんだよ」


 鶴羽は、やれやれ、と出来の悪い子供を扱うかのような溜息をついてみせた。


「生徒会の仕事だかなんだか知らねーけど、勘弁してほしいよな。最後の最後にそんなもんに邪魔されるとか、やってらんねー……。そんなもん放り出してこっち来いよって感じだけど」


 ぶつくさと垂れ流し始めた文句は、愚痴のようで、その裏にどことなく信頼があった。

 それは、御三家が互いに文句を言うときに、少し似ている。


「……鹿島くんと、幼馴染なんだって?」

「そうだよ。御三家ほどじゃねーけど」

「御三家ほど仲良くないってこと?」


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