第四幕、御三家の幕引
 身に覚えがないとまではいわない。喧嘩で相手の腕だか足だかが折れたことは、確かにある。でも、そんな理由で人の腕を折るほど気は狂ってなかったと思う。だから、私の性格と鶴羽樹の言葉を頼りに過去を説明するならきっとこうだ──“どちらからというわけでもなく肩がぶつかったら、鶴羽樹が私と雅に因縁をつけたから喧嘩になって、結果的に鶴羽の腕が折れた”。

 でも、彼方の言葉を借りれば、真実なんて誰にも分からない。私にとってはこうでも、鶴羽樹にとっては違ったのかもしれない。妙に落ち着いて、そんなことを考えてしまった。


「……それと海咲さんが亡くなったことと、何の関係が?」

「俺も明貴人も、あの手術に間に合わなかったんだよ」


 どうやら、御三家と私が立てた推測は間違っていなかったらしい。言葉が足りなくて判然としないところはあるけれど、きっと、鹿島くんと鶴羽樹は海咲さんの手術に間に合わず、手術前に海咲さんを励ますことができなかったせいで、手術は成功せずに海咲さんは死んだとか、そんなふうに考えているんだろう。

 ただ、鹿島くんも間に合わなかったというのは予想外だった。鶴羽樹が手術に間に合わなかった原因は、手術に行く前に不良に絡まれ、怪我をしていたせいで逃げることもできなかったから。でも、同じ理由が鹿島くんにも当てはまるとは思えない。


「なんで鹿島くんも? 間に合わなかったのは鶴羽くんだけじゃないの?」

「あー、それ知らねーの? 俺と明貴人が捕まった理由」

「捕まったって、不良とかに?」


 手術前、二人は一緒にいたということか……。当時は、二人共海咲さんと仲が良かったわけだし、一緒に面会に行こうとしていたことに何の不思議もない。ただ、二人でいるときに不良に捕まったというのなら、鹿島くんこそ鶴羽くんのとばっちりを受けたということでは?

「他に誰がいるんだよ。そうだよ。俺と明貴人は、桐椰と松隆に間違えられてとっつかまったんだ」


 ……それは、さすがに想像の範疇(はんちゅう)にはなかった。お陰で、まさか、なんて小さな声が零れてしまった。


「ホントだっての。金髪の桐椰と俺、坊ちゃん風の松隆と明貴人。桐椰と松隆の情報をそうやって覚えてたヤツらが、俺達をあの二人の組み合わせと勘違いしやがったんだ」


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