第四幕、御三家の幕引
 本当にとんだ巻き込み事故だよ、と鶴羽くんは忌々(いまいま)し気に吐き捨てた。


「でも、アイツら二人をぶち殺すのは、まあまあ骨が折れるし、大体、怪我なんて時間が経てば治っちまう。そんなことしても意味ないだろ」

「だから月影くんを罠に嵌めたの?」


 月影くんの事件のときに鶴羽くんが言っていたことと、いまの台詞が繋がった。しかも、鶴羽くんが示している、御三家の仲の良さに対する嫌悪感を合わせて考えれば……。


「だってアイツら、気持ち悪いじゃん、仲良すぎて」


 苦虫を噛み潰せば、そんな私のほうこそ理解できないといわんばかりに、くるん、と鶴羽樹はまたナイフを回した。


「それなら、その仲良しなお友達が一人いなくなったら、どんな顔すんだろうなって思うだろ。どんな顔すんだろうなってか、その顔を見たかったんだよ」


 中途半端な返事は、全く説明になっていなかった。説明するとすれば、「松隆くんと桐椰くんのせいで襲われたから、復讐したかった。でも二人に直接復讐するより、二人の親友である月影くんを陥れるほうが効果的だと思った。だから月影くんを罠に嵌めた」といったところだろう。でも、そんな風に説明されても、どうせ理解なんてできない。その意味では、確かに説明してもらう必要なんてなかった。


「……濡れ衣きせられて、月影くんが退学になればいいって?」

「ああ。まあでも、月影のは最初はやるつもりなかったんだぜ? 鳥澤って言ったっけ、あの協力してくれたヤツ。たまたま、アイツの話を聞いたからやる気になったんだ」


 たまたま? 聞き間違えたかと思った。雁屋さんのことは、鳥澤くんが鹿島くんに話して、鹿島くんが鶴羽樹に教えたんじゃなかったの?

「……たまたま聞いたって何?」

「ああ、マジで気付かなかったんだな? 俺、この学校来るの初めてじゃないんだ。いっつも生徒会室に入り浸ってたんだ。そん時だな、鳥澤の話を聞いたのは」


 いつも生徒会室に入り浸ってた……。

 そうか、と色んなことが()に落ちた。鹿島くんが、いつも昼休みになると一目散に生徒会室に行っていたのは、鶴羽樹を(かくま)うため。そして、鶴羽樹が月影くんの事件のときも、今日も、鶴羽樹が校舎内を迷わず歩くことができたのは、そうやって学校に忍び込んで、散々下見をしていたから。

< 394 / 463 >

この作品をシェア

pagetop