第四幕、御三家の幕引
 鶴羽樹が腕を上げた。ナイフの刃先は、まっすぐ私に向けて突き出される。鶴羽樹が一歩踏み出すと、その刃先は私に数十センチ近付く。思わず後ずさると、鶴羽樹は追いつめるようにもう一歩踏み出した。私は再び後ずさり……じわじわと、屋上の扉から離されながら、第六校舎の裏庭側の(さく)のほうへ歩かされる。


「……私が死んで、どうなるっていうの」

「あの二人が俺達と同じ思いをすれば十分だ」


 いっそ楽しみだというように、鶴羽の声は大きくなった。


「分かってんだろ? 俺達は、そのためにわざわざお前を御三家の仲間にしてやったんだ。松隆から聞いたことがあったんだよ、幕張(おまえ)に助けてもらったってな。お前が幕張の女だって松隆に教えたのは、あの松隆も、恩人の女なら信用すると思ったからだ」

「……そうやって、松隆くんと桐椰くんに私を信用させて、二人と仲良しにさせちゃおうって?」

「ああ。実際、菊池使ってお前を拉致(らち)ったとき、アイツらはすぐに助けに来た。ああ、あれ、テストだったんだよ。お前があの二人にどんだけ大事にされてるか、試したかったんだ」


 あまりにも乱暴な計画をその口から聞かされ、怒りをとおりこして一瞬理解ができなかった。テスト? 試した?

「何言ってるの? あの時、鶴羽くんが雅のことを脅してたんでしょ? 私が幕張ってバラされたくなかったら連れてこいって。それがテスト?」

「当たり前だろ? つか、菊池のこともぶち殺したいくらいムカついてたから、庄司(しょうじ)がやっちゃってくれたらいいかなーくらいには思ってたけどな」


 庄司、という名前には聞き覚えがあった。雅に連れていかれた倉庫にいた、リーダー格の人がそう呼ばれていた。


「それでもメインはお前とあの二人よ。お前が(さら)われたってなったときに、危険を(おか)してまで助けにくるかなってことを確かめたかったんだ。そしたら、お見事、お見事。血相変えて来たってんだもんな、お陰でお前に死んでもらう気になったよ」

「……藤木さんは」

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