第四幕、御三家の幕引
 自分の声は、思ったよりも落ち着いていた。実際、頭の中だって、風が強くて寒いな、なんて呑気に考えている有様だった。


幕張(おまえ)がそこまで御三家と仲良くならなかったら、また別の方法にしたんだけどな」

「……うっかり仲良くなりすぎちゃったからね」

「お前、全然怖がったりしないのな。これから死ぬってのに」

「……そうだね」


 そう、自分でも奇妙なくらい、心は冷静だ。物理的に崖っぷちに立たされているに等しいのに、欠片も慌てていない自分がいる。

 それを他人に指摘されると、なんとなく理由は分かった。


「……多分、私はずっと死にたかったから。なんか、こういう形で死ぬんだなって思ってるだけ」


 御三家と会ってから、ずっと忘れていただけだった。本当は、私はずっと死にたかった。

 どうしても自分の価値が分からなくて、生きてる価値なんてないと思ってた。だから、誰にも迷惑のかからない方法で死にたかった。あと六年経てば、高校も大学も卒業して、桜坂家から経済的にも離れることができる。そうすれば、もう桜坂家が私に関知することはない。その後に死んでも、桜坂家は迷惑しない。死んだ理由は社会が勝手に作ってくれる。

 だから、私は、あと六年後に死にたかった。あと六年だけ我慢してから、当たり前のように死にたかった。

 それを聞いた鶴羽は「あ、そう。へーえ」と形だけ同意するような、どうでもよさそうな声を出した。鹿島くんは漸く私を見た。ただ、やっぱり何も言わないままだ。

 それなのに、いや、それだからか、その眼鏡の奥の静かな瞳が、何かを糾弾(きゅうだん)しているように見えた。

 でも、それが分かるほど、私と鹿島くんは理解(わか)りあってなんかない。


「だったらもっと早く死んでくれればよかったのに」


 なんなら、今この時は、「死ね」と命じ続ける鶴羽と、「死んでいいのかもしれない」と納得している私とが、一番理解りあっているようにさえ思えた。


「……そうだね」


 やっぱり、私は死んでいればよかったのかもしれない。生きてる価値がほしいと足掻(あが)くより、もっと早く。

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