第四幕、御三家の幕引
 あの日に鹿島くんが言ったとおりだ。学校で死んでも、理由は世間が適当に作ってくれる。それどころか、鶴羽樹に殺されたとなれば、また意味が変わってくる。勝手に死んでしまうよりもずっと気が楽かもしれない。世間に同情されるのはまっぴらごめんだけど、死んだ理由をあれこれ詮索(せんさく)される心配がないというのは幸いな気がした。

 唯一残念なことといえば、御三家と仲良くなってしまったことだ。

『どうしたの? 死にたいんだろ?』

 あの日、詰まった私に、鹿島くんはそう畳みかけた。

 そう言われて、私は自分が死にたくなくなってしまったことに気付いてしまった。六年我慢しよう、六年待とう、なんて殊勝(しゅしょう)な心掛けをしていたわけではなくて、六年は待つべきだと自分に言い訳をしていたのだと気付いてしまった。

 御三家と一緒にいると、自分の価値がどうとか、そんなことはどうでもよくなってしまっていたから。

 でも結局……、こうやって、そっか、こうやって死ぬのか、くらいで納得する私は、変われていなかったらしい。

 ふ、と自嘲(じちょう)が溜息になって零れた。

 結局、私は変われなかったんだな。

 最後にもう一度鹿島くんを見た。鹿島くんは、また私を見るのをやめていた。


「……御三家だけじゃなくて、鹿島くんとも、仲良くなったと思ってたんだけどな?」


 軽口を叩いた甲斐もなく、鹿島くんはやはり私を見なかった。ただ、風音さえなければリップ音が聞こえていたかのように、静かに口を開いた。


「……言ったろ、実はいい人でしたなんてオチはないって」


 ……そのとおりだ。軽く瞑目(めいもく)した。

 最近の私は、鹿島くんは悪い人じゃないと、どこかで信じていた気がする。説明できない不可解な行動を理由にして。

 でも、そんなオチはつきっこないのだ。ここに鹿島くんがいるのは、鶴羽に呼ばれたから。ただ、それだけ。


「終わりにしよう。終わりにするにはお(あつら)え向きのいい天気だ」


 最初から変わらない、どこか無関心そうなその口振りが、私と鹿島くんの関係を教えてくれる。

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