第四幕、御三家の幕引
 その鶴羽の姿が、見えなくなった。

 何が起こったのか、分からない。ただ茫然と鹿島くんの左腕にぶら下がり、間抜けに宙ぶらりんになっている。見えるのは青空と、苦しそうな鹿島くんの顔だけだ。

 その視界に、もう一つの影が現れた。その影は素早く、そして鹿島くんの力よりずっと強く、私の右腕を掴む。


「……桐椰くん」

「ったく、一人で引き揚げろよ、危ねぇな……。おい、左手出せ! 落ちたいのかよ!」


 慌てて左手も伸ばすと、伸びてきた右手が手首の下をガシッと掴んだ。そのまま勢いよく引っ張られ「わわっ」なんて空気にそぐわない間抜けな声が出る。腕が千切れてしまうんじゃないかと思うほどの力に両腕が引っ張られ、ぐぐぐっと上まで引き上げられた。

 上半身だけ屋上に戻ると、腰のあたりが掴まれて一気に引き上げられる。「ぎゃっ」なんてやっぱり間抜けな声と共に飛び込んだのは桐椰くんの胸の中だった。


「な……な……なに……」

「ったく、鹿島、しっかりしろよな」

「俺は君みたいなゴリラじゃないんだよ」

「ゴリラじゃねーだろ俺だって!」


 心臓がバクバク鳴っている。それなのに、何が起こったのか分からず、目を白黒させているのは私だけだ。鹿島くんと桐椰くんなんて、ついさっきまで生死ギリギリの淵《ふち》に片手でぶらさがっていた私を助けたとは思えない軽口を叩いている。一体、何が起こったんだ。

 っていうか、途中で消えた鶴羽くんはどこに。桐椰くんに抱き留められたまま辺りを見回すと「イテテテッ」と苦しそうな声が聞こえ、その声がした方向を見ると、松隆くんが鶴羽の背中を足で押さえながら、その腕を背中側に回しているところだった。隣にはロープ片手の月影くんが立っていて「縛るのか?」「首をね」と不穏な話をしている。

 あたりを呆然と見ているうちに桐椰くんに抱えられて地面に降ろされた。そのまま野良猫のように手をつき、ぺたりと座り込んでしまう。本当に、この一瞬で何が起こったのか分からなかった。


「……えっと……? あ、桐椰くん、ありがとう……」

「呑気にお礼言ってんじゃねーよ……」

「鹿島くんもありがとう……?」

「桐椰の言葉をそっくり繰り返すよ」

「……でもなんで……?」

「鹿島と共同戦線をはることにしてね」


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